それが彼の今であると予想できたから
「何してるんですか、貴方は」
見知った背中を見つけて声をかけると驚いたのか肩を強張らせてゆっくりと振り返った。
「よくわかったな……」
「オーブの制服ですからね」
ザフトの建物内でオーブの制服を着てうろつけるのはこの人ぐらいだろう。
その行動に感心はしないけど。
「護衛なのはわかりますけどうろつかないで下さい」
「すまない」
違う制服を着て向き合うのはやはり慣れない。
「誰か探してるなら呼びますよ」
「えっ?」
「そんな意外みたいに驚かないで下さい」
「す、すまない」
そこで謝られたら普段の俺が不親切みたいじゃないか。
そう言っても仕方ないのに用事を促すように沈黙した。
「いや、特に誰に用事があるとかではないんだ」
「は?」
「ザフトの敷地内に入ってる自分に違和感がないのかあるのかわからなくて見て回ってただけで」
元ザフトの赤服というだけでも注目されるのに、その人物がオーブの制服を着て歩き回っていたら好意的ではない視線も受けるだろうに。
違和感の有無がわからないというがそう感じた時点で違和感があるんじゃないんだろうか。
「軽率だったな。戻る事にするよ」
「……ご一緒しますよ」
背を向け歩き出そうとした彼に並び、立ち止まった彼に構う事なく歩き出した。
「シンはいくつになった」
「俺ですか?そんなの聞いてどうするんですか?」
「この間俺が誕生日だったから聞いただけだ。誕生日もいくつかも知らなかったからな」
「はあ、そうですか。おめでとうございます」
「軽いし、質問に答えてないじゃないか」
少し歩くと沈黙を破ったのは彼だった。
一時期ザフトで共にいた時に簡単なデータは調べて覚えていた。
だけどそれは言わないでおく。
「誕生日がどうかしたんですか?」
「全く答える気はなしか……。ザフトにいた時は短くも長くもなかったが歳を重ねる度にいつも思ったんだ」
こちらに顔を向けて語りかけるようだったのが長い通路に向き、その先を見つめている気がした。
見ているのが通路の先なのか過去の彼なのかはわからない。
「同じようにまた歳を重ねられるんだろうかと」
「貴方にしては随分と後ろ向きですね」
「死ぬ事は怖くない。怖かったのは見たい未来に近づけずに終わる事だ」
軍人となれば死がつきまとう。
いずれくる死というものにわざわざ近付くものだと俺は思っている。
殺す側となれば勝てるのかといえば違う。ただの境界線に過ぎない。越えたいのは境界線なのではなく現状なんだ。
殺すために軍人になるわけではないんだから。
「そう思って行き着いた先がそこですか」
「相変わらず手厳しいな」
「全てを許容したわけじゃありません。貴方もキラさんも。ただ二人が越えたい現状が俺も同じだけですから」
「違えば戦うという事か」
「そんなのあんたもキラさんと戦ってわかってるはずだ」
気付けば昔の口調になっていた。
立ち止まった足と見つめた瞳は彼を睨みつけてるように見えたかもしれない。
全てに賛同できたわけではない。でもこれ以上悲しい結末を迎えないためにも知る必要があった。
「シンは俺とは違うな」
「当たり前です」
微かに笑みを浮かべる彼を追い越して歩を進める。
彼もすぐに止めた足を進ませて俺に並んだ。
「いつしか歳を重ねるのが怖くなった」
話が戻ったのかと思うが口だしはしないでおく。
「それでも背中を押してくれる人がいたから下だけは見ないでいられた」
視線を彼に向けると真っ直ぐ前を見つめて表情は明るかった。
通路の先にまるで誰かがいるような表情。
でも先にはそれらしき人は誰もいない。
「それは……」
「最近は誕生日を迎える度に不安もあるが前みたいな恐れはない」
それは誰かと聞きかけたが彼の言葉と笑みに聞くのをやめた。
それが彼の今であると予想できたから。
「なら、もっとしっかりした方がいいですよ。アスランさん」
「そんな俺が抜けてるみたいに言うな」
「いくら会談中で他の護衛と交代中とはいえ持ち場からこんな離れてたんですから。まさか久しぶりで迷ったわけじゃないですよね」
冗談で言ったのにアスランさんは気まずそうに顔を背けた。
その様子に思わず吹き出してしまった。
「こういう建物はどこも構造が似てるんだ!」
「わかりましたよ」
「わかってないだろ!」
言い訳まで仕出して笑いが止まらなかった。
来年は何か言うなりあげるなりしてもいいかもしれない。
そんな事を思った。
H21.11.2
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