とっても短いお話
mha hqは専らTwitt
▽2020/05/16(23:33)
喰種 カネキ「さよならってさあ」
フライパンを返せば黄色の卵焼きが宙を舞う。熱に焼かれる音が心地良い。彼女は手慣れた手つきでお皿にオムレツを乗せた。
「なんで寂しそうなんだろうね」
ケチャップを片手にけろりとした表情で笑う彼女は、彼女いわくムカデの絵を書き散らす。食べ物にムカデーーただの線に見えるがーーを描くあたり、彼女は常人の感性から逸脱していた。カネキは頬を人差し指で掻いてから、彼女の手からケチャップを取り上げる。
「左様ならば仕方ない、からきてるって前に聞いたことはあるけど。別れを惜しんでるからだね」
「それじゃあばいばいよりさようならの方が合ってるね」
彼女の作るご飯はとても美味しかった。笑うときに細める双眸が愛おしく、穏やかなアルトの声が好きだった。カネキ、と呼ぶ声だけは、気が狂いそうな意識の中でもやけにはっきり聞こえていたような気がする。
「名前」
走り去る車を挟んだ向こう側で、見開いた瞳が揺れる。喧騒に紛れる僕の背を、追いかけるように声が弾ける。
「...さようなら」
柔らかな悲鳴が心臓の奥で突き抜ける。泣きそうな顔をした彼女が、痛かった。
喰種