とっても短いお話
mha hqは専らTwitt

▽2020/05/16(23:35)

名探偵 服部平次
最近他県の捜査にも手を出しては解決に回っているらしい彼は世間に西の高校生探偵と呼ばれて随分経つ。歩けば数人振り返る人が見受けられるくらいには有名人である。彼が有名になっていくたびに何かが遠く離れていく気がして、用もにないのに押しかけていける幼馴染という立場を利用してこうして時間を見つけては部屋に遊びに行っていた。行けばゲームやら漫画やらなにやらで時間を潰して、テストが近ければ勉強をする。距離は近いはずなのに、どうしてこんなにも遠く感じるのだろう。

「へーじー...? あれ、また寝てる」

有名人が災いしてか自身から首を突っ込んでいるのか、彼はここのところよく眠っていた。部屋に行っても主が寝ているのであれば長居はできまい。入り口でぽりぽりと頭をかきながら、今日の用事は読みかけの漫画を返して続きを読むことということにまあいいかと本棚の前に腰を下ろした。今更寝ている間にどうだのと細かいことに目くじらをたてる間柄でもない。親しい仲にも礼儀ありとはいうが、彼の場合そんなものは存在しているのだろうか。
かちかちと時計の針が時間を刻む。通り過ぎる車の音や鳥の声に追いかけていた言葉の羅列から目を離す。来たのは確か三時くらいだ。もう空は茜色に染まりつつあった。

「...そりゃあ、これだけ話しも進むよねえ」

横に積み重なる漫画を見下ろす。帰るか、と本棚に漫画を戻しながら、背後のベッドを見遣った。ーーばちりと、そんな音がした。気がした。

「なんだ、起きてたの」
「...ん、誰かさんが熱中してんのを邪魔するのも悪いかと思うてな」

寝ぼけ眼、ではなさそうだ。起きてから時間は経っていそうな雰囲気の彼に「起きてたなら教えてくれればいいのに」とぼやいてはみたけれど、彼の言葉は意地悪に近い。呆れというのかなんというのか、複雑な表情を浮かべている。もしかしたら、これはその彼の思う礼儀から外れたものであっただろうか。いやでも前にも似たようなことは何度もしているし、と漫画を戻しながら考えていれば、ベッドの軋む音がした。振り返れば立ち上がって伸びをしている彼は、ぼんやりと窓の外を見ていた。

「平次...?」
「なんや」
「どうしたの?」

首を傾げて見上げれば、彼は薄笑いを浮かべてわたしの後ろでしゃがみこんだ。

「心臓に悪いもん見てな」
「悪いもん? 夢見悪かったん?」
「みたいなもんや」

そう言うと背中から手を伸ばして私が持っていた漫画を掠め取る。ことんと戻したその手が本棚を突いてうごかなかったせいで、私は彼と本棚の間で縮こまるしかなかった。

「えらい、心臓にわるいもんや」

はあ、とついた溜息が首筋にかかって少しだけ震えた肩に、彼はまた息を吐いた。

名探偵



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