とっても短いお話
mha hqは専らTwitt

▽2020/05/16(23:36)

ag 銀時
強くなりたいわけじゃない。でも、足を引っ張るほど弱くなりたくはなかったのだ。

「それで、今日はどこを怪我したって?」

ボロボロの空き家を帰る家に、私たちは眠りに戻ってくる。天人の猛威は去ることもなく、見慣れた顔を一人ずつ連れ去っていってしまう。帰る家と呼ぶにはあんまりなその場所で、今日も私は彼に出会えた。

「残念、私より銀の方が怪我をしているみたいだ」
「だったらもう少し労った声が聞きたかったんだけど」
「やだよ、もう飽きた」

毎日毎日、怪我はしていないかと聞いて回る。あいつはだめだ、こいつは間に合う。そんな声は、日常茶飯事になっていた。生きていくことに必死で、繋ぎとめられない人を見送り、また戦場を駆る。

「...私さあ、本当は前の陣地で死ぬつもりだったんだ」

終わらない戦に疲れて、起きている人などいない。半壊した縁側に座る私を後ろでただ佇んで聞く彼もまた、もしかしたら眠ってしまっているかもしれない。しばしの沈黙を遮るように、突然落ちてきた手が砂埃で固まった髪を撫で付ける。

「それで、名前ちゃんはどうしてここまでついてきてみたんだ?」
「気持ち悪い坂田くんは、本当に赤い血を流して死んでしまうのか気になって」
「それじゃあ、アンタまだ死ねねーなァ」
「みたいだね」

クスクスと笑ってみせた声が揺らぐ。笑い声が風の音にまぎれる。わなわなと震える唇を噛んで、落ちない血にまみれた手で衿を握りしめた。

「......もう、もう、諦めちゃっても、いいかなあ?」

苦しい。息が苦しい。空気が粘ついて気道を塞ぎ、血液が巡ることを拒んでいる。

「だって、ここに帰ってきたって、あの人は、もういないのに」

強くはなかった。今まである意味運だけで生きてきたのだというほどに、皆に比べて非力だった。だというのに、そんな私より強かったあの人のほうが先に逝ってしまうなんて。
ボロボロの空き家を、帰る家としているのに。あの人は、もう帰ってこない。

「......生きろよ」
「......くる、しい」
「生きろ」
「......」
「アンタ、俺の血が赤いか見てみたいんだろ?」
「......」
「俺のために、生きろよ」

ここが、俺たちの帰る家だ。
明日になれば、またいなくなる家族が帰るこの場所で。
君の月のような髪だけを頼りに、また帰ってくるために戦場を駆るのだ。

ag



←prev | top | next→