とっても短いお話
mha hqは専らTwitt

▽2020/05/16(23:37)

夏目 名取
名取周一という祓い人がいる。名門であったが既に廃業していた名取家の人間であり、複業もつかの間よもや名門というだけでなくその名は知れ渡っていた。

「やあ久しぶりだね、まさかこんなところで会うなんて」

多くの式を食い殺したという妖怪を追っていた。苦戦を強いられた挙句怪我を負い、山中で身を隠していた時にその男は現れた。こんな山深い森で出くわすということは、狙う獲物は同じということだ。我知らず、苦い声が漏れた。

「君が苦戦しているとは相当な妖らしいね」
「帰れ、彼奴は私が斃す相手なのだから」
「その怪我で? そんなに死に急がなくても、俺たちは人より早く死ねるだろうに」
「ああもう煩いな、あんたは十分、名取の名を上げたんだから邪魔しないでって言ってるの」

彼は側にいた角の生えた面を被る式をどこぞへ飛ばし、背負っていたカバンから白い晒しを取り出した。

「要らない、大体それ、魔封じで使う道具でしょう」
「まだ術はかけてないし、もしそうだとしてもそんな無駄な力は使いたくないからね」
「......」

右腕に縛られたそれはみるみるうちに赤く滲んでいく。早々に蹴りをつけなければ、眩暈がしてきそうだ。一応、不本意ながらも礼を言えばにこやかな笑顔を返される。相変わらず、いけ好かない男だった。

「...まだ、そんなことに縛られてるのかい、君は」
「......そんなこと?」
「君は、家に縛られている。それでは式と変わらない」

だから、私はこの男が嫌いなのだ。負わされるものが違う。願うものが違う。それなのに、彼は彼の物差しで、私を責める。私はただ、私がしたいようにしているだけだというのに。

「式でもなんでも、あの人が喜ぶならそれでいい」
「......自己犠牲は褒められたものではないよ」
「貴方は自己陶酔でもしてればいいんじゃない?」

うめき声が、どこからか聞こえてきた。

夏目



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