とっても短いお話
mha hqは専らTwitt
▽2020/05/16(23:38)
magi 紅玉できることならば得難い何かをもぎ取れるような人生を期待していた。どこにでもあるような、だからこそ平穏であり退屈でもある家族のもとに生まれ育ち、どこかに根付いていた少しの反抗心から煌の兵として生きていくことを決めた。戦争がお好きと他国から非難される煌の兵になることは、反面死にに行くようなものだとわかってはいた。だがこの年の男児などほぼみな何事かがなければ兵になる。お国のためと奮起するものが多いのが当然だが、そんな中で俺だけはぽつんと浮いていた。
「熱心なのねえ」
ひとり剣の稽古をしていたのは、この身に宿る何とも言えない感情を飼い慣らす行為の1つで、毎日とは言わないが眠らない夜半はこうして修練場にいた。だが、彼女−−練紅玉姫と出くわしたのはこの日が初めてだった。皇女である彼女が一介の兵士に声をかけるなど、と驚きと疑心に満ちた目を閉じ、床に膝をつく。横に控えていた夏黄文の見下ろす双眸が、気にかかった。
「皆に追いつくには、こうでもしなければいけないのです」
同期の中では、わりに強いと自負している。だからこそつける嘘だった。
紅玉姫が身軽な軽装をしていたから同じ目的だとわかった。つい先日、彼女が迷宮を攻略した話は聞いている。お国のための鍛錬か、と心臓の裏側がざわついた。
「貴方の見据える先には、貴方にとってよくない相手がいるようにしか見えないわ」
「...どういう、意味でしょうか」
「今にも斬り伏せたい一心の、太刀筋ということよ」
強い口調だった。第八皇女はいつも列の後ろで顔を伏せてばかりだと思っていたが、その日は真っ直ぐに俺を見据えていた。
「ここはお嫌いかしら?」
煌帝国に仇なす者とみられたのだろうか。
「失礼ながら、自国に好きも嫌いもありません。あるのはただ、」
思いがけず、言葉が詰まった。なにがある。俺の内に、一体何があるという。
どうしたのだと降る声に、こうべを垂れ、
「伽藍堂にございます」
もとより何もない。空虚で、叩けば乾いた音がする。何も詰まってなどいない。
「そう、素直なのねえ」
笑われているわけではなく、口をついて出た本音に近い。カツンと音がする。
顔を上げれば、燃え盛る赤髪があまりに眩しかった。
「自身を切り刻んだところで、現れるのは劣等感しかないと、私は学んだけれど。貴方にそれが合うかは分からないけれど」
去っていく足音が、脳内をかきまぜる。ぐるぐると、ぐるぐると、思考がぐちゃぐちゃになった。
何がという経過で、俺は今ここにいるのかは、あまりに無意味なことで忘れた。あるのは現実だ。目の前は白龍王子によって狂わされた仲間の顔。見上げれば、あの燃え盛る赤髪の名残もない透き通る青が、空に溶けるように流れている。あの人がつらい顔をしないように、俺は死なない。一介の兵士にできることはそれくらいだ。死人の数を増やさないこと。それくらいでしか、返すことはできない。
「......だがこれじゃあ、屍の山だな」
血潮が舞う。あの人と同じの、赤が。
俺は、得難い何かを、ついぞ。
いや、まだ死ぬわけにはいかない。俺はただ、あの日初めて俺を見たあの人のために、戦うしかないのだ。それはおそらく、伽藍堂であった俺を満たす、唯一無二の、感情だ。
とある煌帝国兵士の手記より
原作28巻までようやく読みました。なにこれつらすぎ展開すぎて、なんの漫画読んでるんだか分からなくなりそうです。にしてもあの絶望感たるや...。
magi