とっても短いお話
mha hqは専らTwitt

▽2020/05/16(23:40)

MHA 切島
やばい。語彙力が著しく低下した挙句にやばいなどという汎用性の高い単語以外頭に上らないほどには、この状況はやばい、というところだった。

ーーお昼も終えた午後二時現在。
隠れた敵を個性を使わずに捜索するという、ヒーロー科の実技授業の最中であった。
切島と名前が敵役となって二十分間、ヒーロー役の誰かに追われることとなる。相手が誰かはわからないが、兎にも角にも捕まらなければ敵役の勝利である。共に行動しながら周囲に警戒して進む、という作戦をとった二人は早速手頃な空き部屋に隠れて過ごしていた。
しかしどうやら向こうには爆豪がいるらしい。警戒に警戒を重ね、ついに逃げ込んだのはアパートを模した建物の一室にある、押入れの中だった。
この授業では二棟のうちのどちらかに敵が隠れているという想定だ。押入れは安直ではあるが、アパートの部屋の数も多くかつ玄関から遠い。音がすれば部屋の窓から飛び出せば捕まることはない。いくら相手が爆豪でも個性がなければ物理的な距離には勝てまい。
そうこうしている間に五分毎に鳴らされるアラート音が訓練場に響いた。
まだ、五分。
この一畳分もない狭く暗い押入れに隠れて、まだ五分だ。換気のために開けた若干の隙間から流れ込んでくる風だけが、理性を引き止めている。
ーー考えてもみろ、と数分前の自分を説得したい。
切島は名前が好きだと断言しよう。話はそれが大前提だ。最初こそ合法的に近づけるなどという下心が八割を占めていたが、これは苦行だ。そんな甘くなどない。いやある意味匂いは甘い。ーー思考回路も、甘い。


「切島くん」


適当な距離を置いてはいるがいかんせんこの狭さだ。必然的に、どこかしらの肌が触れる。次いで一応潜めた声が、いつもより幾分上ずっていて、だらだらと汗が額を這う。


「…このままはやっぱりよくないよねえ」


どっか移る?
玄関側を見張る名前はこちら側に背を向けたままそう言った。
ーーだめだ。高く結った髪も汗ばむうなじもタイトなコスチュームも、全部が目に毒だ。耳もついでに塞いでおきたい。
一向に返事のしない切島を不思議に思い振り返った彼女の瞳は、わずかに差し込む日差しのせいで人形のようなブラウンに見えた。


「…きり、しーーっ」


二回めのアラート音。
窓ガラスが揺れる音がした。
ーーいやもう、すぐにでも見つかりたい。苦行だ。修行にもほどがある。
こんなに近い、けれど触ったらもう全てが瓦解する。
触りたい。逃げ出したい。見つかりませんように。
どこかで歩き回る足音が聞こえる。
室内を確認してから押入れの襖を開け放った彼女は、暑さのせいで顔はじゅくじゅくに熟れていた。


「いこ、見つからないうちに」


このぐずぐずに腐った下心なんてものは、このまま一生見つからないまま押入れに押し込めていたい。
でなければ、いまにもその首に噛み付いてしまいそうだった。

MHA



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