とっても短いお話
mha hqは専らTwitt
▽2020/05/16(23:42)
kmt 煉獄杏寿朗原作バレ
きっと、あの人を追ってしまうだろうと、そう思っていた。上弦の鬼はわたしにはおそらく倒せない。けれど、一太刀浴びせたかった。この憎しみを抱えるには腹を裂いて出てきそうで、けれど勝つことも叶わないのであれば、相打ちでも構わないから、この炎刀を刺し貫いてやりたかった。
「名前さん、」
仏壇の前でいつものようにただ呆然と座り込んでいれば、亡き彼によく似た弟が泣いていた。
盆をとりこぼして、膝をついた彼は、泣きながら、それでも必死に堰き止めようと両手で拭いながら、言った。
「僕、名前、さ、」
「…千寿郎」
言葉がつかえてでてこない彼は、それでもゆっくり浅く呼吸を繰り返してから、顔を上げる。
「おいて、いかな、いで…ください」
仏壇の蝋燭の炎が揺れる。
暗くなった外からもれる光に、千寿郎の派手な髪が照らされた。思わず伸ばしてしまったのは、彼のためなのか誰のためなのか、わからなかった。それでも触れてしまった千寿郎の髪はあの人のものより数段に柔らかく、小さかった。
「……っ」
彼のその胸に収まるほどの体躯を抱きしめた。生きろと笑った。死ぬなと呪った。置いて逝くなと泣いた。一人は寂しいと蹲った。
もうどこにも進めない身体がひどく重くて、千寿郎の身体は温かくて、どこにもいやしない彼の声だけが耳の奥で何度も何度も呪っている。
「千寿郎、わたし、」
この家は、まるで時が止まったようだった。
腰に提げた日輪刀だけが、道だというのに。この重さをぶら提げたまま、進むしかないというのに。
まだ、重くて重くて。
あの日を繰り返す日々から抜け出せないのだ。
kmt