とっても短いお話
mha hqは専らTwitt

▽2020/09/14(12:44)

本当の嘘 48.5話没ネタ
終礼が終わった後、相澤に呼び止められて#名前#の個性の事を聞かれたのが大凡二週間前だ。それからというもの、どうやら彼女は相澤と個性制御のための訓練を行っているようで、遅いときは帰る時間が六時を回ることもある。それまでは出久自身も勉強やトレーニングやできることをして待っていたのだが、いつからだろうか、彼女にその日の特訓の成果を聞けば余所余所しい返答が返ってくるようになった。
友達と帰るからと、今週の月曜は一緒には帰らなかった。昨日の火曜日の帰り道は同じではあったけれど、殆ど言葉も話さなかった。
今週も残すところあと二日で、来週の木曜日と金曜日の二日を使って期末テストが行われる。彼女も勉強と、慣れない訓練に疲れているのだろうかととくにしつこく聞こうとは思わなかった。一人で帰ってきたという日も、家での様子は特段おかしな点もないようで、純粋に安心もしていたのだ。心配ではあるが、何かあれば今度こそ彼女は口に出すだろうという思いもあった。
そんな中で、よもやこんな話が持ち上がるとは誰が思っていただろう。


「そういやさ轟、一昨日女の子と帰ってなかったか?」
「なんだカノジョか!!?」


七限のヒーロー基礎学を終えて更衣室で着替えながら、唐突に上鳴がそんなことを言い始めた。まだ全員が着替え途中であったので勿論その場には轟もいたのだが、当の本人は目をぱちくりとさせている。峰田が異様に彼女という単語に反応を示しているのはいつもの通りだったけれど、相手が轟ということもあってか瀬呂や切島も興味を示し始めた。


「まじか! やっぱイケメンはちげえな」
「だな。上鳴も知ってる奴だったのかよ?」
「それがさ――」


ちらりと、上鳴が出久を見上げる。その視線に、切島や瀬呂たちが数拍の間を開けてもしかしてと言った。


「その子、#名前#ちゃんだったんだよ」
「――は、え、ええ!?」


思わずフェイスガードを取りこぼした出久は、ワイシャツのボタンを留めていた轟を凝視して#名前#って、と言葉を落とした。
――一昨日は丁度彼女が友達と帰るのだと言っていた日。ということはつまり、友達というのは轟のことで、彼と一緒に帰るということだったのか。騒然とした更衣室の中で、轟は見当がついたのか「ああ」と肯定とも感嘆とも何とでも取れるような一言を吐き出した。


「わめくなうるせェ!」


ネクタイを片手に束ねて早々に着替え終わった爆豪がロッカーを粗雑に閉めて、周囲を剣呑とした目つきで黙らせる。「お前も幼馴染だろー、気になんね?」などという上鳴の一言に爆豪が叫ぼうとした言葉に覆いかぶさるように、轟の一言がこぼれた。


「付き合ってんだ」
「えええほんとに!? 轟君ほんとに!?」
「ああ、訓練に」


手から落ちたフェイスガードを拾いあげる余裕もなく、また言葉にもならない声が落ちた。
周囲がそっちかよと残念がる声を上げながら、着替えに戻っていく。
――確かに、彼女は今相澤と特訓をしている。個性制御のために。それに轟が必要になることなどあるのだろうか。


「――訓練だァ?」


コスチュームケースを左肩に担いだ爆豪が、轟を見やりながらそう言った。


「緑谷さんはヒーロー科に編入するのか?」


この間の一件で、緑谷の双子である#名前#は敵事件の被害者であり無個性ではないという共通の認識がA組の中で広まった。つい先日まで誘拐やら殺人未遂やらに晒されて、大火傷を負って入院したというのはまだ新しい。そこまで親交を深めているわけではないだろうA組にとって彼女は緑谷の家族、という肩書以上のものはない。それでも、有個性でヒーローに関りがあって双子がヒーロー科で個性訓練もしているともなればそんな発想にもなるだろう。
飯田が襟を立ててネクタイを結びながら言った言葉に、爆豪が「んなわけねえだろ」と否定して舌打ちをかますと出て行った。


「なんだあいつ。お前らほんと謎な幼馴染だな」


瀬呂の言葉を受けてヤキモチかと笑った上鳴の言葉には、誰も同調していなかった。


「轟君」


ロッカーの扉についた鏡を見ながらネクタイを締めていた轟の隣に歩み寄りつつ、落としたフェイスガードを拾いあげる。彼は薄青の瞳で横目見ながら、首を傾げた。


「特訓って、何してるの?」
「俺が付き合ったのはあの日だけで、そん時は俺が炎を出して…彼奴がそれをコントロールするみてえな訓練だった」
「? 轟君が個性を?」


#名前#の個性は基本的に炎を吐き出すような、いわば上鳴のようなものだと思っていた。本人もそうだろうと話していたので間違いはないのだろう。上鳴の個性は帯電になるので放出した電気の行き先を定めることはできない。耳郎の個性にしてもそうだ。だからこそ彼女の場合はコスチュームにスピーカーを搭載することで指向性を見出している。
炎をコントロールするような能力は、単純に放出する能力とはまた別物である。
全然出来てなかったみてぇだけど。そう付け加えた彼はロッカーのドアを閉めるとケースを持ち上げた。
――何故、炎に方向性を持たせることができるかもしれないという話を彼女は隠したがったのだろう。あの態度は恐らく、敢えて言うことを選ばなかったのだ。また故意に隠されているという事実がどうしようもなく悔しく、自然と眉根が寄っていた。


「緑谷?」
「――…あ、そっか」


父の個性は火を吹くことだと聞いている。母の個性は、ちょっとした物を引き寄せる力だ。彼女は、この母親の個性をも継いでいたと、そういうことなのではないだろうか。

MHA



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