とっても短いお話
mha hqは専らTwitt

▽2020/09/30(22:56)

あまつき 露草
最終巻までネタバレ
どのくらい前だっただろう。ある日ふっと、"私の目は覚めた"。
沢山のチューブに囲まれて、いくつかの目蓋を押し上げた先は白い部屋だった。隣に寝ていたはずの露草はどこにもおらず、代わりに梵天だけが穏やかな顔をして隣で"死んでいた"。

「名前。幸せだったかい?」

名前。そう、私は名前だった。そして、隣にいるのは双子の緑で、ガラス張りの向こうにいるのは姉だった人。この声が誰のものだったのかがひどく靄がかかって思い出せないけれど、たったひとつだけ冴えた意識を持って、私の夢は続いている。

「――露草」

縁側で頬杖をつく露草の垂れた袖を掴む。緩く振り返った彼の周りに、巡らせていく結界(バグ)に、彼は笑った。あの冴えた一瞬からこの世界での私の居場所は隅々まで誰かのもので、露草との隙間にあったものだけは、私だけのもののしたかった。だから、回線の荒波を縫って作り出した私だけの回線。

「お前、器用だな」
「これが?」
「別に、こんなのなくたって帰ってくるやつもいねえのに」

空五倍子も梵天もどっか行っちまったしなあ。
露草はごろりと寝転がって、腕を伸ばした。そろりとその腕に頭を乗せて、ふんわりと香った草の匂いに目を閉じる。

「うん――そうだね。でも、こうしないと、露草どっか行っちゃうし」
「俺が?」

彼と私はちがう回線の海にいる。目が覚めてしまえば、露草はどこにもいなくなってしまう。
――そういうふうに作ったというのなら、私はまた一生だってあの人を恨んでいく。いやだ。もう、誰だっていなくなってほしくないのに。
ぐずついた鼻に、なんで泣いてんだお前、と呆れ笑ったような声が落ちる。
貴方だけが、いてくれる世界を作ってしまおうか。そうしたら、緑は笑うかもしれない。笑って、鴇時と一緒に作ってくれるかもしれない。そんな夢を、見ていた。

あまつき



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