とっても短いお話
mha hqは専らTwitt

▽2020/11/18(14:50)

企画 うまくいかなかった集01
IF A組未来で、会話とノリが続かなかった。
(IFなのでこんな付き合い方もあったらなというお話です)
高校一年の頃、緑谷と爆豪は劇的な不仲を極めていた。それは緑谷の双子で普通科の#名前#とも同様で、その原因や発端を聞かないまでもなく緑谷出久と#名前#対爆豪の様相は傍から見ていてもハラハラだとするものだった。それが、体育祭、炭谷という元ヒーローの授業、その後に続いた事件、夏の合宿、文化祭、A組対B組の対抗戦、その他諸々を経て、この三人の関係性は全く別のものに変わっていた。それらに名前を付けることができるほどのものであると切島が気づいたのは高校一年の冬も過ぎた頃だったと思う。
そして、二年に無事全員が進級できて少し経った頃。
爆豪と切島、上鳴、瀬呂の四人で昼休みに食堂へ向かっていた時だった。
廊下の少し先で、#名前#がそれなりに重さのありそうな段ボール一箱とクラス分のノートを上に積み重ねて、慎重に足を運んでいる姿を見かけた。#名前#ちゃんだ、と上鳴が声を上げるよりも先に先頭を歩いていた爆豪が何も言わずに歩幅を大きくして、丁度滑り落ちそうになっていたノートを背後から手を伸ばして掴むとそのままに荷物の全部をさらっていった。


「あれ、勝己君」
「いつもの金髪パシればいいだろーが」
「ありがとう、でも名前ほんと覚える気ないよね…」


#名前#がノートだけでも、と手を伸ばすと「うるせェ前だけ見て歩いとけ」だなんて相変わらずな物言いで、それから振り返って先に行ってろと切島たちに言い残すなり、すぐ左の階段を二人で下って行ってしまった。
階段の方から二人の言い合いが薄っすらと聞こえてきて、その声に残された三人で顔を見合わせた。

なんていう、他愛もないことが続いていた。
爆豪から直接、#名前#とどうなったとは聞いていない。ただ切島が勝手にそうなのだろうと想像していて、瀬呂や上鳴もそれとなくそんなふうに思っていると認識の共有をしたくらいだ。そもそも爆豪が改まってそんなことを伝えに来るというのも想像ができない。下手に手を出すよりは静観するに限るな、といったのは瀬呂であったと思うが、正直いって上鳴の「すげえ気になるけど」という言葉には同感した。
ただ、春も過ぎた頃、これが仲間内だけのものではなくなりはじめた。


「昨日、放課後に教室戻ったらさ、爆豪と#名前#ちゃんがいてねー! あの爆豪がすんごいなんかもう…言葉にできない顔をしてた」


寮のリビングのソファで芦戸が女子同士で集まっている中、勢い余って立ち上がりながらそんな弁舌をしていたのをたまたま立ち聞いた。そもそもこんな共有スペースでしている会話に隠し事もないだろうが、女子だけでしている会話というのがなんだかとても禁断のもののような気がして、切島は冷蔵庫からボトルを取り出すとそそくさと部屋を後にしようとした――が、芦戸に声をかけられた。


「切島知ってる!?」
「は!? な、なんだよ突然…!」
「だーかーら! 爆豪と#名前#ちゃんの話!」


――いや、むしろ切島とて答えが欲しいと思っているところだ。如何せん想像の枠を抜けないし、答えを知っていたからと言って他人のそういう繊細なものを暴露するような性分は漢らしくない。


「お、俺も知らねェよ」
「そーなの。まあ爆豪ってそういうの大っぴらに言うタイプでもないか」


耳郎がストローを銜えながらソファに埋もれると、確かに、と葉隠の楽しそうな声が聞こえた。


「もうあの顔はほんと見てほしかった…! 笑う一歩手前みたいな、ほんと――」
「あ、爆豪」


芦戸の声を遮るように現れたのはインターンから帰ってきた爆豪で、頬のカーゼを剥がしながらドアを開けた彼に全員の目が集まった。


「あ?」
「…爆豪、」
「えちょ三奈、まじやめときなって――」
「#名前#ちゃんと付き合ってるの!?」


剥がしたカーゼをキッチン横のゴミ箱に投げ入れながら、たった一言。


「ああ」


あまりに簡潔かつ爆豪らしくない起伏のない音に、全員が一瞬無視を決め込まれただけだと思い込んでから咀嚼する。本人がエレベーターに乗り込んでから一瞬の間の後、芦戸と葉隠の声がハイツアライアンスに響き渡った。

それから、A組の中で知らないものはいなくなった。
そのあとに同じくインターンから帰ってきた出久に事の詳細を求めれば、冬頃から? なんていう返答が返ってきた。その時の彼の表情については筆舌に尽くしがたいが、家族でしかも兄という立場――双子に兄も妹もあるのかは知らないが――がその顔を作っているのだと思うとそれ以上は誰も言葉を重ねなかった。空気の読める瀬呂が話題をうまく変えなければ、轟の天然爆弾でも炸裂しそうな勢いだったので彼のそういうところが本当に有能だと思う。

一学期の期末試験も間近に迫った或る休みの午前中、リビングのソファで#名前#と出久がノートを広げていた。聞くにこの双子の面白いところは得意科目と苦手科目が真逆なところであるそうだ。#名前#の手元には化学が、出久の手元には英語が広げられている。


「これどういうこと?」
「あ、これは、ここにベンゼン環が――」


手元のホワイトボードに書き込むその横顔はそっくりで、思わず驚嘆してから切島は少し離れた大テーブルで小テストを解き直していた。自室で勉強をする奴や大人数で授業をしている奴もいて、リビングは比較的静かだった。
十二時も回った頃、それぞれが昼食のために一階に集まり始めていた。休みの日はそういった担当を決めていないので、集まった全員でじゃんけんをすることに決まった。


「私も一緒に食べていいの?」
「当たり前じゃん、皆でたべよーよ!」


葉隠がポケットから手袋を出して、じゃんけんの準備をしたことのを初めて見た#名前#がふっと笑う。爆豪も自室から降りてきたようで、クラス全員と#名前#という状況が出来上がった。
人数が多すぎるために女子側と男子側で二人ずつ選出し、そこからじゃんけんをして三人に絞る。四人もキッチンに立たれると流石にスペースが足りないのだ。
男子側が爆豪と砂籐が残り、どちらであっても美味い昼食は確定されたも同然で、瀬呂と密かに拳を握った。
女子はというと、麗日と#名前#が残ったようだった。


「…は、これ勝己君と砂籐君と二人だけでも成立しそうな感じだね」
「確かに…ここはじゃあ二人に任せるでいいんやない?」
「テメーの飯くらいテメーで用意しろや!」
「それじゃんけんした意味なくなっちゃう」


なんだかんだと文句を言いつつも、最終的に麗日と#名前#と爆豪が今日の昼食当番に落ち着いた。
#名前#がA組のキッチンに立っているだけでも新鮮だというのに、そこに爆豪までもがいると轟あたりが要らない一言でも口を滑らせそうで内心ひやひやとした。


「…勝己君のそういう器用なところは凄いと思うよ」
「ああ? お前が不器用なんだろーが、形ぐれえ揃えろ」
「見た目で味は決まんないよ、多分」
「#名前#ちゃん意外と大胆なんね」


ソファから後ろの三人を覗き見る。


「…これ麗日がいて良かったな」
「あれが轟だったら多分火に油だったぜ」


業務用炊飯器の湯気をぼんやりと眺める。隣の瀬呂も同じようにその後姿を映していた。
麗日が冷蔵庫の中の肉を取り出しながら爆豪がメニューを決めていく。フライパンを握る彼の隣で、野菜を切り刻む#名前#が笑う。どうやら彼女に食材切りは一任されたようで、パッドに山が出来ては減ってを繰り返していた。ふよふよとパッドが麗日の個性で浮いていて、まるで宇宙ステーションみたいだとこぼした#名前#に爆豪が小学生かよと鼻で笑った。


「指気を付けろよ」
「包丁くらい大丈夫なんだけどなあ」
「注意力散漫が何言ってんだ」


翻るフライパンの中の具材。麗日が鍋に水を張りながら、「爆豪君が上手すぎるんだと思う」と差し込んだ合いの手に#名前#が頷いた。
様子を見計らって大テーブルに皿やら箸やらを並べていく。


「#名前#、上のでかい皿」
「上の…あ、はい」


ごく自然に、食器棚の二段目に収まる大皿を手渡す。

MHA



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