とっても短いお話
mha hqは専らTwitt
▽2020/11/11(23:29)
MHA 緑谷「いずくん、ご飯食べよ」
出久君、と呼んでいた声はいつの間にか変わっていた。呼びづらかったのと笑った彼女は確かに喋ることが苦手で、深慮しては言語化できない癖があった。
「さっきね、轟君が――」
実習の後のせいか汗ばんだうなじに髪を張り付かせたまま、彼女は楽しそうに言葉を続ける。
同じ敵役として轟と初めてチームを組んだこと、普段は天然な発言ばかりだというのにいざとなると別人みたいで、とおかしそうに笑った。
「――いずくん?」
いや、これは別に轟に対するあれそれではない。あの神野の悪夢でヒーローになることを諦めかけた彼女が、今やこうして笑っているだけで幸せなことだ。それだけでいいはずだ。
「おーい、無視がすごいよ」
ぱちん。耳元で弾けた音にはっとした。顔を音の方に向けると彼女がむくれた顔で両手を合わせていて、もぐもぐと言葉を咀嚼していた。
「……ごめん」
「…なに謝罪?」
「あ、えっと、うーん……轟君、個性も判断力も最近磨きがかかっててすごいよね。今日なんてあの八百万さんの――」
「会話のタイムラグ! もー…その前の会話、無視、するの良くないと思います!」
まるで飯田を真似るような挙手に思わず笑う。
「ごめん。ちょっと、轟君が羨ましくて」
「…いずくんだって、常闇君を抑え込んでたし、響香ちゃんの索敵対策とか、考えて、機能させてなくて、そういうのって制圧能力高い個性だけじゃできなくて、それだって、すごかったよ」
弁当箱を隣に置いて笑う彼女はきっと、心を言葉にする個性だってあるんじゃないかと思う。だから、辿々しい言葉はそれでも真っ直ぐに届いてくるし、いつだって着飾る必要なんてどこにもないのだろう。
MHA