とっても短いお話
mha hqは専らTwitt

▽2020/11/18(14:55)

企画 うまくいかなかった集02
同じく流れが続かなかった。
(IFなのでこんな付き合い方もあったらなというお話です)
File.切島鋭児郎

人間関係というものはここまで恨み妬み嫌悪で捩れるものなのだと恐らく初めて知ったのは、入学して間もないクラス内の戦闘訓練だった。爆豪という男はその名の通り激烈な性格と個性をしていて、彼の視線の先には大抵幼馴染の緑谷出久がいた。彼は爆豪とは似つかない穏やかな性格をしていて、時折彼に感化されたのか生来のものなのか、激情を発露させることはあったが基本的には人畜無害のような男だった。そんな緑谷には双子の#名前#がいて、彼女は普通科に通っている世にも珍しい"無個性"だと噂されていた。USJ事件の後、保健室で休んでいた出久を待ちながらにした会話では、出久とは異なる個性なのだと言っていた。そのあとに爆豪と彼女の「俺を騙してたんだろ」というあの問答の正解などいつになっても分からないが、そういう一言が弾けるほどには彼らの間には"個性"という絶対的なものが立ちはだかっていたのだと思う。
体育祭、六月の事件、職場体験、夏合宿、インターン、文化祭、A組B組対抗戦、その他諸々の出来事を経て、緑谷の双子は全く異なる個性を有していて、且つ、#名前#はヒーローを好ましいと思っていないということが分かった。それでも、緑谷出久も爆豪勝己も、プロヒーローになるための正しい過程を着実に踏んでいった。
この三人の止むことのない波紋のような関係性に名前を付けることができるほどのものであると切島が気づいたのは、高校一年の冬も過ぎた頃だったと思う。
爆豪と切島、上鳴、瀬呂の四人で昼休みに食堂へ向かっていた時だった。
廊下の少し先で、#名前#がそれなりに重さのありそうな段ボール一箱とクラス分のノートを上に積み重ねて、慎重に足を運んでいる姿を見かけた。#名前#ちゃんだ、と上鳴が声を上げるよりも先に先頭を歩いていた爆豪が何も言わずに歩幅を大きくして、丁度滑り落ちそうになっていたノートを背後から手を伸ばして掴むとそのままに荷物の全部をさらっていった。


「わ、勝己君」
「いつもの金髪パシればいいだろーが」
「ありがとう、でも名前ほんと覚える気ないよね…」


#名前#がノートだけでも、と手を伸ばすと「うるせェ前だけ見て歩いとけ」だなんて相変わらずな物言いで、それから振り返って先に行ってろと切島たちに言い残すなり、すぐ左の階段を二人で下って行ってしまった。
階段の方から二人の言い合いが薄っすらと聞こえてきて、その声に残された三人で顔を見合わせた。
――爆豪から直接、#名前#とどうなったとは聞いていない。ただ切島が勝手にそうなのだろうと想像していて、瀬呂や上鳴もそれとなくそんなふうに思っていると認識の共有をしたくらいだ。そもそも爆豪が改まってそんなことを伝えに来るというのも想像ができない。下手に手を出すよりは静観するに限るな、といったのは瀬呂であったと思うが、正直いって上鳴の「すげえ気になるけど」という言葉には同感した。

File.芦戸三奈
入学初日、相澤の適性がなければ除籍処分という難関を無事乗り越えて、ついこの間A組は全員二年次へと進級した。雄英高校は基本的にどの学科もクラス替えは行っておらず、見慣れた顔ぶれに囲まれながら穏やかな春を過ごしていた、そんな或る日。


「やば、明日課題提出なのにノート忘れるとか…ほんと寮近くてよかったー」


下駄箱でスニーカーから上履きに履き替えながら、芦戸は少しばかり息の上がった肩を撫で下ろした。ハイツアライアンスから教室までの距離は時間にして十分とかからない。去年の夏に敵連合に襲撃されて以来すっかり寮生活というものが沁みついたおかげで、学校に、あるいは部屋に忘れ物があったとしても困ることがなくなったのは学生としては大きなものだと思う。
放課後の西日が差し込む廊下はまるで異次元のような静謐を漂わせている。寮に戻ってもクラスメイトがいるという環境のためか、教室に残ってまで談笑をするようなよくある光景は見なくなった。どの教室もがらんとしていて、背景を埋めるオレンジに物寂しさを覚えた瞬間。小さな笑い声が弾けた。
階段の最後の一段を上り切ってすぐ右側のA組のドアが、僅かな隙間を残して開いている。そこから漏れる声には聞き覚えがあった。


「勝己君も苦手なものがあるんだね」
「あ? 一問ミスっただけだわ。大体お前のその化学、ボロクソにも程があんだろ」


爆豪の机を挟んで正面に向かい合う二人の姿に、思わず踏み出した足をひっこめた。
化学だけはどうしても、と苦笑いを浮かべる彼女はヒーロー科でトップを争う緑谷出久の双子で、爆豪の幼馴染というものであった。――あの夏の襲撃事件で、彼女も敵連合に誘拐された。それ以外にも、ことあるごとに敵犯罪に巻き込まれやすい彼女はヒーローというものを嫌っていて、それでも笑うことを止めない人だった。


「さっきから言ってんだろーが、ベンゼン環があんだからこいつは芳香族アミンで――」


狭い机を挟むばかりの二人の額は今にもくっつきそうなほどに近くて、だというのになんともない顔をして手元のページを見やる姿に叫びだしたい気持ちを抑え込む。隣に葉隠がいようものならさぞ盛り上がったことだろうに、これは女子たちに持ち帰るほかない事案だろう。
入学当初に比べて随分落ち着いたとは言うものの爆豪は気性の激しい人で、眉間に皺の一つもなく物を教えている様などこの一年で初めて見た。柔らかい声も初めて聞いた。人の名前を覚えようともしない爆豪が唯一といっていいほど確と呼ぶその#名前#という単語は、ほかの何とも混ざり合わない色をしていると形容する方が正しいだろうか。
やりゃ出来んじゃねーか、と酷く満足げな爆豪の声に、あの二人のことを多くは知らないけれど、それでも良かったなあと静かな廊下でぽつりと零した。

File.A組
日曜日のハイツアライアンスは気ままに皆が過ごすからかいつも以上にゆったりとしていた。
二年生に進級してからというもの外出規制が以前よりは緩くなり、お昼時ともなれば遊びに行く人も多かった。例にもれず峰田と上鳴は街に繰り出していて、轟は実家の方に、インターン組は

MHA



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