とっても短いお話
mha hqは専らTwitt
▽2020/12/06(16:02)
本当の嘘 76話切島目線の小ネタ入れられなかった裏話
多分原作だと一生だって伏せられていそうな中学のワンチャンダイブも発言も、緑谷双子キャラがいたら明るみになりそうだなと。(いかんせん緑谷出久がかっちゃんすごいなので)
友達って難しい。
「爆豪?」
ふいに離れていった背中に瀬呂と上鳴、切島の3人で顔を見合わせた。人混みのせいで彼の目線の先に何があったのか一瞬わからなかったが、首を伸ばして人波の向こうを見やればそこには名前がいた。どうやら転びそうになったところを助けにいったようだった。
それからぎこちない会話をした後に、唐突に名前が爆豪の手を掴んだかと思うと、ふんわりと柔らかく笑ってみせたのだ。
「…はじめて、見たわ。俺」
瀬呂が驚いた風な声で言った言葉に、全員が頷いた。
遡ること九月の半ば。
『あ、名前ちゃんだ』
教室にやってきた彼女は出久を探しているようで、爆豪の席の後ろの空席を見つけるとそのあたりで屯ろしていた切島たちに手だけ振ると踵を返した。そのとき、丁度爆豪が廊下からやってきたようで、目が合うなり名前の唇がひき結ばれた。
――名前と爆豪の険悪さを、A組では知らないものはいなかった。それこそ入学したての出久と爆豪を見ていれば、中学の頃に――もしくはそれよりも前から――何かがあったことなど明白で、双子である名前がその空気に無関係なはずがなかった。事あるごとに名前は衝突というまでもないただ苦い空気感を作り出していて、彼もそれはよく分かっていた。
ただ随分と、その空気が変わり始めていることはなんとなく知っている。それでも、まだ"普通の幼馴染のように会話"をしている様は見たことがなかった。
爆豪の一言がこちらにまで届くことはなかったが、大方出久の居場所でも告げたのかもしれない。彼女は瞬きの後唇を僅かに動かして、立ち去っていった。
『爆豪と話してる時の名前ちゃんって、すげえ硬いよな』
『いや、初期の緑谷と爆豪見てたら何があったとか聞くまでもないじゃん』
上鳴と瀬呂は机に肘を突きながら、自分の席に戻ってくる爆豪を見上げる。
『――でさ、爆豪。ぶっちゃけ何があったわけ?』
上鳴は気になったものは口に出す。そこに善悪やまごつく空気感というような概念は一度捨て置いてしまうのが彼の良いところでもあり、悪いところでもあると思う。
爆豪は案の定眉間に皺を寄せて、がたりと乱暴に椅子を引いた。
『……』
爆豪の珍しい沈黙に、思わず生唾を飲んだ。
『…飛び降りて死ねっつった』
『マジ!? そりゃねーわ爆豪!』
『緑谷強メンタルすぎだわ…俺だったらもうかっちゃんとか呼べねー』
爆豪は背もたれに深くもたれたまま、何の反論もしなかった。
『名前の前で言ったってことかそれ』
ああ。
たった一言。
瀬呂が「よく今も幼馴染みやってるわマジで」といった言葉を最後に予鈴のチャイムが鳴った。
爆豪はただ、左の頬を親指で掻くとひどく顔を顰めるばかりだった。
――想像に過ぎないが名前ならば、張り手の一つくらいはかますだろうと思った。
USJの時に見せた二人の会話の一端も分からないままだが、お互いが無関心のまま過ごすのではなく、目を逸らさないでいる限りは何か胸の内に期待があるのではないかと思えた。それがどんなものかは知る由もないが、でなければ、もう疾うに素知らぬ他人になっていただろう。
そして、赤いペンキに塗れた二人を見遣る。
「…俺、ちょっと嬉しいかも」
上鳴の言葉に、瀬呂が俺もと笑った。
――笑い飛ばしてしまえるような一言ではなかったと思う。名前が出久をどれほど大切に思っているかなど今まででよく知っていて、そんな彼を死ねだなどと軽率に吐いた爆豪を、相変わらずだったんだなと言ってしまうことは正しいかはわからない。けれどそもそもその問題に切島や上鳴たちは無関係で、本人たちだけで解決する問題だ。出久は爆豪のことを恨み辛みの目で見ておらず、名前でさえ、ゆっくりと飲み下して、そうして、あんなふうに笑うことを選んだのだとしたら。入学してから今日までを思い出す。
赤のペンキを握り込んで帰ってきた爆豪は、上鳴と瀬呂の顔を見て「ンだそのツラ、言いたいことあんなら言えや」と片眉を釣り上げた。
「爆豪、バンド頑張ろーぜ」
彼の肩に腕を乗せる。
今日も、爆豪が選ぶ言葉は粗暴だ。それでも、名前が笑って、瀬呂が、上鳴が隣にいて、爆豪はドラムを叩く。
出久と名前の不安や心配を共有し合う距離感をちょうどいいと表現した彼もまた、あのぐらいがちょうどいいのだろう。
MHA