とっても短いお話
mha hqは専らTwitt

▽2020/12/26(01:16)

hq 北
綺麗なものは嫌いだ。
整っているもの、真っ白なもの、完璧なもの――。
一切の隙のないような、そんな正しいものばかりのように物語ってくる綺麗なものが、嫌いだった。
おそらくそれは母の気味の悪いほどの完璧主義を押し付けられていた頃の嫌悪感の名残で、今でも私を締め付けているのだ。
朝から雪が降っていて、深々と積もる白い真綿が私の息を詰めていく。いやだ。世界が真白に埋まっていく。汚れのない白に埋まる。
高校からの帰り道、街灯の下で降り積もる足跡のない雪を延々と踏みつけていく。汚れてしまえ。

「…あんた、迷っとるんか」

雪に沈むほどの低く柔らかい声に振り返った。
同じクラスの北信介と呼ばれるその男は、私が嫌いな人だった。
足跡のない場所を探しながら踏みつけて歩く後ろ姿は彷徨っているように見えたそうで、彼は眉一つ動かさずにそう言った。

「…別に」

目も合わさずに首を振って、また歩く。北は長い足で私の歩幅に合わせて後ろに連なっていた。

「…なに?」
「いや、もう遅いやろ。送ったる」
「迷ってないしいらない」
「じゃあなんで、行ったり来たりしとるん?」

無駄やんか。
そう言いたげな顔が嫌いだ。

「……北君は、綺麗なものが好きそうやね」

雪が積もる。足跡が消えていく。いやだ。

「? 別に、そないなわけとちゃう。いつも通り掃除しとったら綺麗になっとるだけや」
「綺麗になるなら過程なんかどうでもいい」

さくり。さくり。黒い足跡が続いている。安心と同時に、空虚を噛む。
北はしばし悩んだ後、私の前に足を踏み出した。
さくり。
私の足跡などより大きなそれが、白を踏み潰す。

「よう分からんけど、綺麗なものが正しいなんてこと、ないと思うで」
「? 北君がいう?」
「正しいから綺麗にしとるんやないし、結果的にそれが傍からみたら綺麗なだけやろ。あんたん中で精一杯ちゃんとやっとるもんが正しくないわけないやん」

そうして初めて見上げた北の大きな瞳はやはり無感情を装っていた。
彼の襟足にかけて黒くなる髪色が、なんだか正しく綺麗な人ばかりだと思っていた北のそんな一面を垣間見た気がして、少しだけ笑う。

「北君は、よう分からん人やね」

白い雪が積もる。マフラーの隙間から漏れる息に隠れて、言葉を飲み込んだ。

hq



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