とっても短いお話
mha hqは専らTwitt

▽2021/01/15(21:12)

hq 宮侑
→『網膜に結ぶ色を知る』
「なんなん、あんた」

綺麗な顔してファンにサービスできる男だと思っていた。実際そういう場面を見たこともあって、宮ツインズと名を馳せたこの双子の片割れに、違和感を覚えつつも悪い印象はなかった。
――先程までは。

「誰より努力して強くて立派でそりゃもう大層なことやと思うけど、にしたって言葉くらい選べんの」
「は? 何やねんお前」
「通りすがりの稲高生ですけど?」
「んなこと聞いとんとちゃうわ。いきなり出てきて説教垂れ腐って、」
「あんたのために勇気振り絞った子に、なんでそんなひどいこと言えるん?」

ずっと応援しててん、好きです。
そう言った子は泣いていた。告白する前からも涙を讃えるような目をしていたし、きっとずっと、宮侑の背中を追ってきていたのだろう。
地元のテレビでよくその背中を見ていた。体育館の片隅で、学校の廊下で視界に入るこの男の何一つ知りもしなかったが、よもやこんな一面があったとは。
目の前に壁のように高く立ちはだかる宮侑は、不機嫌さの少しも隠すことなく盛大に溜息を吐いた。

「俺がなんで知らん女の知らん気持ちまで背負わんといけんのや。んなもんそっちの勝手やろ」
「知らん気持ちが無関係なんてことないやろ!」
「んで、全然関係ないあんたも俺が好きやって、勝手に幻滅しよったんか? そらお気の毒にな」
「はァ!? あんたのその腐った人間性のどこに惹かれる阿呆がおんねん!」

高校バレー界を風靡していた宮ツインズの片割れがこんなにも人でなしだったとは思いもよらなかった。
思わず張り手の一つでもと右手を握りしめたが、吸い込んだ呼吸でひやりと腹の奥が冷える。そうだ、無関係だった。無関係の他人の修羅場に同情というか腹が立って口を挟んだ自分ができる範疇ではないことくらい、判断がつくほどには馬鹿ではない。右手の指を解いて踵を返した。もう一生金輪際、稲高バレーは応援しないと決めた。

それが、現実はこうだ。
友人が一人ではあの修羅の群れに飛び込めないというので、泣く泣く、渋々、重い腰を上げて体育館に引きづられるようにしてやってきた。宮くんやら角名くんやら黄色い悲鳴が響き渡っていて、よくぞまあこんななかで集中できるものだと思う。
二階の壁に寄りかかりながら隣でその声に紛れる友人を横目に、バレーを眺める。
――あんな口から流暢に他人を侮辱する言葉を吐くわりに、彼のバレーは綺麗だと思った。ボールを離す指先から、スパイカーを慮る思考を垣間見た気さえする。
抜きん出て際立っている何かを持っている人は、そのかわり人としてのあれそれを失ってしまうのかもしれない。そうであれば彼はバレーのために生まれてバレーのために一生を費やしていかなければならないのだろうなと、それを可哀想だと思うのか羨ましいと思うのか、わからなかった。
――ばちりと、目があった。
みるみるうちに不機嫌になっていく彼の眉間。同時に、同じような顔をしている自分。同じ顔をしたチームメイトに声をかけられて――それは言わずもがな宮治で、宮侑は捲し立てるように唇を動かした後視線で殴りかかってきた。はずみで中指を立てそうになったのを反対の手で抑えて我慢する。
こんな男ではなければ、綺麗なバレーだのに。
友人の背中をつついて、気分が悪いからと告げると体育館を後にした。

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