とっても短いお話
mha hqは専らTwitt

▽2021/04/09(02:20)

magi 君青
レーム海域にある小国からの使者を護送したのがつい昨日のことだった。

「…私が、騎士団長の護衛、ですか?」

シンドバッドに何やら真剣な面持ちで告げられた思ってもいない特務に、頓狂な声を上げた。後ろに控えていたジャーファルの隠そうともしない眉間の皺に、もしかしてと思い当たる節を浮かべて引き攣った眦を、彼が見過ごすはずもなかった。
――国賓の護送は基本的に一、二隊の務めであるが、稀に三隊からも配属されることがある。昨日はそういう命令が下され、更には国賓であるから多少は着飾れという隊長命令もあって、いつもとは確かに毛色の違う任務だった。三隊はとくに粗暴な風体の男が多いので、大概こういった場合に矢面に立つのはナマエかセレスタ、あと数名と多少は見目が立つようなものが選ばれる。船に乗り込みレームの港で停泊をしたのち、豪胆そうな男とその部下十数名が乗り込んで船はシンドリアへと出発した。男というのがその小国の騎士団長という人で、レームの属国であるからには丁重にとの進言にそれはもう全員が互いに全ての所作を見張っていた。何かあればシンドリアの大事になる。
――そんな男が、まさかこんな軽薄だとは誰が思うだろうか。騎士団長という馴染みのある言葉を信頼しきっていた。

『――ああなんだ、女が乗っているのか』

甲板の守護をしていたナマエをおそらく言っているのだろう。それ以外にこの船の見える場所に女性はいなかった。着慣れない長い裾をはためかせながら振り返るなり、太い腕が腰に回った。

『シンドバッド王も女好きと聞くが、気が合いそうだ。女、名は?』
『…は、』

――視界の端で、セレスタが動いたのが見えた。

『…シンドリア王国軍第三隊副隊長のナマエと申します』
『――は、かような腕で副隊長? それは、"そういう"役割なのかな?』

近づけられた顔から精一杯身を反らせたところで、尚この男は詰め寄ってきた。胸を押し返すわけにもいかず、ただ抵抗の意思としてそっとその熱い胸板に両手を添えれば何を思ったか空いていた手がナマエの手をしっかと掴んだのだ。

『ふむ、剣を持つか。柔な女は好みでないから、ちょうどいい』
『――リカルド騎士団長』

セレスタがにこりと人好きのする顔を浮かべている。

『彼女は優秀な剣士で、我が三隊の主力です。そのように仰らないでいただきたい』
『主力、か。これで?』
『はい。仮令何があっても、騎士団長のお手を煩わせることなく、我が国へとお送りいたしましょう』

男は僅かに微笑んで、そうかと言ってようやく腰に回していた腕を離した。

そんな先の出来事を、わざわざジャーファルやシンドバッドに報告をしていなかった。セレスタのおかげでことなきを得、一応隊長には事の顛末を伝えたが騎士団長の機嫌を損ねたわけでもなく、何故かわからない厳重注意を受けて終わったのだ。
それが、この結果だ。

「――ということが、ありまして」

シンドバッドは、苦笑していた。

「いや、それとなく人物を知っていればナマエを外しただろう、不快な思いをさせて悪かった」
「いえ、とくに何があったわけでは、なかったので…」
「まあ、ただ無碍にもできまい」

引き受けてくれるかとの申し出に、断るなどの選択肢があるはずもなかった。御意に、と拳を包んでこうべを垂れ、それから詳細が決まるまでは通常業務にあたってくれとの話が終わるまで、ジャーファルは終始無言を貫いていた。

magi



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