とっても短いお話
mha hqは専らTwitt

▽2021/06/08(23:26)

magi 君青
海賊との船上戦で、#名前#がまたしても怪我を負ったという。そこまではいつもの話で、呆れながらも仕事を切り上げて逸る足で医務室へと向かえば、ついこの間と同じように笑っている彼女がいた。ただ、記憶の中で彼女が怪我をするなどという茶飯事の中でこんなにも酷いものはあっただろうか。
#名前#は右目だけを器用に閉じさせて、しかもその周囲に赤らんだひび割れのような傷を負っていた。ドア口で思わず立ち惚けたジャーファルを、首を大きく右側に捻らせながら左目で捉える。――彼女は笑ってしまいそうになった唇を引き結んだ。ジャーファルさん、とこぼした声は細く、目の前にいた医者が少しばかり席を外そうと腰を上げて脇を通り過ぎていく。医務室には、二人だけの呼吸の音が響いていた。

「…すみません、なんだかよく分からないけど、何かの魔法をもらったらしくて。ヤムが今魔力痕から解析方法を辿ってくれているので、そう長くはかからない……の、ですが、その顔は怒ってる…?」
「……そう見えているのなら、そうなのかもしれない」
「……ジャーファルさん、」

ベッドに近づくと、#名前#はぴくりと肩を震わせる。――剣の人だ。分かっている。
彼女のすぐそばにまで歩み寄って、その右頬に手を添えた。乾いた皮膚が指先に引っかかる。ぺり、とまるで脱皮した生物の乾いた鱗のようなものが落ちた。

「…痛くは、」
「痛くないです。今日は、本当にこれだけ。…ジャーファルさんに、あともう少しで無傷を誉めてもらえたかもしれなかったのに」

残念、とうっすらと頬を緩ませた#名前#は、ジャーファルの頬に添える左手を握りしめた。

「…帰ってきてくれただけで、いい」

重いため息がこぼされて、#名前#の肩口に頭を乗せた。
――帰港を知らせる鐘の音に安堵する心を彼女は知らないのだろう。

「ジャーファルさん、いつも心配をかけてごめんなさい」
「そう思ってるなら、船に乗る回数を減らしてくれてもいいんですよ」
「それは、ちょっと難しいです」
「知ってますよ」

彼女の傍の剣を、ここ暫くは真っ直ぐに見ることができないでいた。

magi



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