とっても短いお話
mha hqは専らTwitt
▽2022/01/05(20:53)
magi 君青レームの続き
これは、ナマエが浅はかであったのだろうか。
確かにリカルドと初めて会った時、彼はナマエのことを娼婦かなにかと勘違いしていた。その後も彼の中ではナマエは変わらずそういう立場としか思われていなかった。かといってセレスタの言葉添えもあり、一応は大丈だろうと考えていた。随所に気になる素振りはありながらも、こんな賭けを提案されるとは思わなかったのだ。
「――いや、言えないでしょう……」
私室を離れ階段を降りながら頭を抱えていた。額に手を当てながら考え事をしていてので、そういえばここが紫獅塔であることをすっかり忘れていた。
「ナマエ」
「っ、お、お疲れ様です、ジャーファルさん」
「……なんです、その顔は」
一階層へと降る踊り場から一つ段差を踏んだところで、正面の廊下から現れてきたのは紛うごとなきジャーファルだった。彼の眉間に皺が寄る程度には、"その顔"というものをしているようだ。
いえ、と言いかけて、なんでもないわけがないなと悟る。けれど――ああ、そうだ。隠すことを選んでしまったくらいには、この人にも何かしらの隠し事をすることに慣れてしまっているのだろう。アレクセイの娘であった頃から、そういう癖は染み付いていた。
「ちょうど、リカルド騎士団長をお送りしたところで。明日、手合わせをしていただけることになったので、作戦を考えていました」
「へえ……そう」
じとりとした目が、ナマエを射抜く。
「わ、私、三隊の着港報告を聞かなくてはいけないので、失礼しますね」
ジャーファルの前を横切って、まさしく脱兎の如く駆け出してしまった。
これで何もないわけがないだろうに。昔より随分と、隠し事は下手になった。――彼の目は、中身の全てを透過させてしまう。
これは、ナマエだけの問題で、ナマエが勝てばいいだけの話だ。それだけだ。ジャーファルは、関係はないだろう。彼の思考を煩わせるような一端には、なりたくない。
赤蟹塔で報告会をしながらも、心はずっと上の空だった。
「で、"ナマエ副隊長"」
「――は、い…った!」
隊員が散り、赤蟹塔にたった二人きりになった途端にセレスタの厚い手のひらが背中に弾ける。
「何勝手に騎士団長との約束を取り付けてくれてんだ? 隊長に話を通せ、まず!」
「すみません……」
「で、しかもなんだ、なんでお前が先陣切って手合わせ願い出てんだ?」
「……すみません……」
「大方いいチャンスだとでも思ったんだろ? あ? 初見で舐められて見返せるとでも思ったろ?」
「っ……すみません……」
「で。あの騎士団長が、しかもお国はレーム属国だ。闘技場で沸いてる国が、なんの条件もなしに飲んだとは思えない」
「……」
「……。まさかなァ、あんたシンドリア王国軍の副隊長だからなァ」
「……」
「……目を逸らすな、否定しろ」
「……恐らく……セタが思っている事態には……なっているんじゃないかとは……」
互いに深呼吸を一つ。様子を伺いにやってきたアルサスが二人の名を呼ぶ声がやけに神妙に聞こえた。
「……まさかとは思うが、一晩でも買われたか」
「……もしくは、国に、連れて帰ると」
アルサスの足がぴたりと止まった。
セレスタの緑の相貌が瞼に覆い隠される。
「……勝つんだろうな」
「当たり前です」
「レームは剣闘士の国。属国といえど状況に変わりはない。いい相手だろうなァ」
「セタ! そんな話じゃ――」
「この話はそれで終わる。勝てばいい。けど、そうじゃねェだろ。お前、その返事なんて返した。お前、ジャーファル様に言えるか? 俺でさえ腹立ってんだよ。なにが国に連れ帰るだ。それを賭け事で持ち出されるほど、お前は軽くはねェ」
「っ」
「お前、うちの副隊長だろーが」
「頭冷やしてこいバカ」
magi