とっても短いお話
mha hqは専らTwitt

▽2024/04/29(21:12)

TOV アレクセイ娘
続き
操作不能のエレベーターが着いた先は、血と腐敗した肉の臭いで充満していた。
襲いかかる魔物を倒しどこからか聞こえた声に耳を澄ますと、暗がりの中で確かに幼子がたった一人蹲っていた。

「えっぐ、えっぐ……。パパ……ママ……」
「だいじょうぶだよ。何があったか、話せる?」
「こわいおじさんにつれてこられて……パパとママがぜいきんをはらえないからって……」
「ねえ、もしかして、この子、さっきの人たちの……」

どうやらリブガロの角を渡した夫婦の子供とのことで、ポリーという少年を連れて再び屋敷の地下を歩き回ることにした。
足音に粘着質な音が混じりそうな気さえする。

「……魔物に人を食べさせて、飼育してたつもりか」

隅に転がる白い物体はよく見なくとも骨の類で、大きさからしておそらくは人骨であることが伺える。
――不快だ。
ブラックウルフを斬り伏せて、ドアを押し開けて進むユーリを追った。

「……あんたは、なんだってこんなとこに用があったんだよ」

散らばる骨と魔物を横目に、ユーリが柔らかくはない口調で問いただす。
それの答えを、正しくはまだ持ち合わせてはいなかった。

「……さあ。ただ、ノール港のひとたちを助けたいと思ったのは、本当ですよ」

ユーリはへーえ、と腑には落ちていない相槌を返して、次に現れた部屋を前に口を噤んだ。
檻のような鉄格子の先にはラゴウがいた。

「趣味?ああ、地下室のことですか。これは私のような高雅な者にしか理解できない楽しみなのですよ。評議会の小心な老人どもときたら退屈な駆け引きばかりで、私を楽しませてくれませんからね。その退屈を平民で紛らわすのは私のような選ばれた人間の特権というものでしょう?」
「選ばれた人間の、特権……」

つくづく嫌になる。この腐り切っている帝国の内政を目の当たりにするたびに、あのひとの背中がチラつく。
ユーリが術技で檻ごとラゴウを吹き飛ばすと、彼は逃げるように身を翻し、駆け足に去っていった。
リタがすかさず魔術で破壊を試みようとするのを、左手を前にかざして制す。

「待って。証拠を確認してから騎士団を呼ばないと逃げられます」
「天候を操る魔導器を探すんですね」

天候を操る魔導器は見つかり魔術で室内を爆発と火の手で囲んだものの、船に乗って逃げられてしまった。
飛び乗った船の先には紅の傭兵団の首領と赤目の暗殺集団がおり、戦闘になるも相手が逃走。ご丁寧にに船の駆動部分を盛大に破壊してから去っていったせいで、ラゴウ邸の比ではない炎が立ち上った。
船が沈みかけ、慌てて全員が海に逃げようとした刹那、中から人の声が聞こえた。
――聞き覚えのある声。この船はラゴウの持ち物である。考えられる最悪が、一瞬にして頭をよぎり、動き出したユーリを追い抜いて燃え始めている木製の扉を勢い蹴破った。

「――ヨーデル様!」

煙を吸ったのか気を失いかけている彼は入り口近くで倒れ伏しながら、力を振り絞り顔を上げ、それからすぐに脱力して額を打ちつけた。
彼を担ぎ、脱出路を確保していたユーリとともに船から飛び降りる。しっかとヨーデルを抱え込み飛び込むも、船の沈む渦に巻き込まれそうになった。#名前#の首根っこをユーリが引っ捕まえて、必死に水をかき分けていた。
#名前#もユーリも潮流にのまれながらも海面から顔を出せば、運良く騎士団を乗せた船舶が近づいてくるのが見えた。
ヨーデルは変わらず意識を失ってはいるが、息はある。ほっと一息もつかぬうちに、怒号が飛んだ。

「自分より図体でかい男を担いで泳げるわけねェだろ!!!」
「ご、め――」

みすみす死ぬ気かと、責められた声に、頭を殴られた気がした。
反論もしない#名前#にユーリは前髪をかき上げながらため息をこぼして、近づいてきた船舶を見上げていた。

TOV



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