とっても短いお話
mha hqは専らTwitt

▽2024/05/01(06:37)

TOV アレクセイ娘
続き
ユーリは眦を歪ませながら、背を向けて部屋を出ていった。
フレンはそんなユーリの背中を細く長いため息を吐きながら見送る。

「またやってしまった……。僕はただ、ユーリに前に進んでほしいだけなのに。いつまでもくすぶっていないで」
「あの、フレン……」
「……お恥ずかしいところを」
「あなたはどうされるんですか?」
「行ってもいいのでしょうか?」
「なぜですか?」
「……ユーリと旅をしてみて変わった気がするんです。帝国とか、世界の景色が……。それと、わたし自身も……」

エステルの言葉に、ヨーデルが薄く微笑む。次期皇帝候補同士だからといって険悪ではなく、昔からヨーデルは何かにつけてエステルの身を案じていた。互いに自由の少ない身だろうけれど、評議会を後ろ盾とするエステルの家柄では、ヨーデルよりも肩身の狭い思いもしたことだろう。
エステルの意思を尊重して推し黙る彼に、フレンもユーリに彼女の身を引き続き託すことにしたようだ。
三人が部屋を出ると随分とがらんとして見えた。

「あなたはともには行かないのですか?」
「はい、ラゴウ邸で偶然出会っただけですから」
「そうですか。――こうして会うのも何年ぶりだろうね」
「……騎士を辞めて、家を出て、もう七年は経ちます」
「これまで何を、とたずねても?」
「殿下に話せるようなことはなにも。ただ、護衛をする代わりに足を借りて、あてもなく旅をしていました」

ヨーデルを前にすると、表情が取り繕えなくなる。

「騎士団を辞めても、変わらないね。変わらず、騎士のままだ。こうしてもう義務もないというのに私のことも守ろうとしてくれる」
「確かにきっかけは父かもしれませんが、初めてお会いしたその時から、務めでも義務でもなく、私は殿下の剣であり、盾ですよ」
「――そうですか」
「もし殿下がまた城を抜け出したいとおっしゃれば、喜んでお連れしますよ」
「! ははは、随分と懐かしい頃の話を…そうだね、フレンは多少頑固なところがあるから、そういうときは#名前#を呼ばせてもらうよ」
「殿下!?」

冗談だと、寂しげに笑った。
十二か十三の頃の話だ。あの頃よりもはるかに彼は高い足場に立っている。
#名前#とてそんな無礼も無謀ももうできる場所にはいない。
フレンは軽く咳払いをして、あなたは一体、とこちらをみた。

「没落貴族の、いまはしがない一帝国市民ですよ」

フレンの訝しむ顔があまりに真面目で面白おかしく、ついふきだして笑ってしまった。

「ああ、申し遅れました。#名前#と言います。こう見えても腕に自信はありますから、もし力が必要な時は遠慮なく呼んでください。ヨーデル殿下に誓って、あなた方が不利になることは致しませんし、必ずや助けとなりましょう」

ヨーデルが気楽にフレンと呼ぶ相手だ。そしてあの何癖もあるユーリの古い友人だというからには、彼は信用に値する人物だろう。
実直すぎて眩しささえ感じる。
彼は面食らった顔をしたあと、

「私はフレン・シーフォと言います。殿下の古いお知り合いならば、むしろ私こそ貴女もお守りするべきお人です」
「……では、背中を預けておきますね」

こちらにも曲がりなりにも矜持はある。
ヨーデルは楽しそうに笑っていた。

「それでは、わたしももういきますね」

深く頭を下げてから部屋を出る。
さて、殿下に対して謀叛とさえとれる態度をみせたラゴウの足取りを、ひとまず追っていこう。紅の絆傭兵団とのつながりもあるようなので、ダングレストにも足を運ばなくてはならない。となると、行き先は最近騎士団が建設を進めているヘリオードを経由していく道が早そうだ。
ふたたび、一人で結界の外を歩き始める。――賑やかな場所にいると、離れた途端に寂しくなってしまうものだ。
もしまた彼らと出会ったら、もし、今度もまた行先を同じくしていたら。少しだけその旅路に連れられるのも悪くないのかもしれない。

TOV



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