抱えるにはあまりに小さいから
敷地内の桜も散り落ちて、季節もすっかり夏めきだった頃だった。
雄英高校は基本的にクラス替えはなく、慣れた顔ぶれのまま二年に上り、名前は普通科らしく日々課題に追われていた。一年の頃のような敵がヒーローが、というような忙しなさはもう随分と落ち着いていて、食堂で時折ご飯を食べる出久の表情は迷いのない明るさを浮かべていた。
「悪ぃ緑谷、席空いてなくて、隣いいか?」
「うん、大丈夫」
先週ぶりに出久と食堂で待ち合わせをして昼食を摂りながら近況報告会をしていると、トレーを持った切島や上鳴たちが片手を上げてやってきた。出久と一言一句違わず返事をすると、彼は笑って出久の隣に腰掛ける。食堂はいつもの通り混んでいて、名前たちのテーブルが一列空いていたおかげで珍しく爆豪も隣に並んだ。
「ハモった上に飯も同じとか! 相変わらず仲良しだなー」
「気色わりーな、違うもん食っとけや」
「カツ丼の気分が一緒だっただけなのに」
「ね。そういうかっちゃんも親子丼」
「鶏と豚を一緒くたにすんじゃねえ!」
名前の正面に出久、右隣に爆豪と何だか奇妙な顔ぶれ――爆豪と出久は相も変わらず出会い頭に挨拶のごとく罵声の応酬を広げているが、最近は出久も結構真面目な顔をして言い返すようになった――になってしまったが、これはこれでたくさんの報告という名の言葉を織り交ぜながら、出久と同じカツ丼を平らげた。
流石に食べる速さまでも同じというわけにはいかず、他愛もない話をしながら名前が食べ終わるのを待っていた全員で食器を戻しに席を立つ。昼食時なんていうのは人が密集するタイミングに大きく変わりがないために、出入り口は大抵団子状態になる。某テーマパークのようにゆっくりと進んでいると、同じC組の女子二人に後ろから声をかけられた。
どうやら五限めの化学の授業は章末テストらしい、何ていう情報に焦りを覚えて――何といっても化学が苦手――背後にいた彼女の手元の教科書を見ながら歩く。隣で爆豪が鼻で笑ってくるが、中学の頃から勉強でさえ爆豪に勝てた試しがない。彼の要領の良さには舌をまかざるを得ないのだ。ヒーロー科の授業もあるというのにそういうところは純粋に凄いところだと思う。
そろそろ出入り口も近くなってきたので前を向こうと思った矢先だった。
「ッわ、」
教科書を広げていた友人が、自動ドアのレールに爪先を引っ掛けたのだ。ちょうど目の前にいた名前は身体をわずかに捻らせていて、受け止められる体制ではなかった。友人ごと倒れ込みそうになった名前を支えたのは左隣にいた爆豪で、右手を引かれたおかげで何とか残った足で踏ん張った――までは、よかった。その友人の両手は、名前にしっかりとくっついていた。
「――ごめん、名前…」
「っぶねェな、前見て歩けやクソモブが!」
――名前を含むC組の彼女たちの沈黙は、何も爆豪の言葉遣いに押し黙ったのではない。いや、クソモブも大概口が悪いけれど。
「…ちょっと勝己君、踏ん張ってて」
「は? ――ッはぁ!?」
全体重を後方に乗せるようにして、未だに繋がったままの右手を引っ張った。切島たちも異変に気づいて振り返る。綱引きのように力を入れているにも関わらず、繋がった手は一向に離れる気配がなかった。
「――やっぱり!! もうほんとごめん名前!! 個性使っちゃった!!」
「はァ!? てめえどういうことだよこれ!」
「えええ二人とも何してんの!?」
「ちょっと待って勝――痛い、痛いから! いず引っ張んないで!!」
出久が名前の右手を、爆豪も反対側に自身の右手を引いていて、それでも名前の手を鷲掴んだままの爆豪の手は僅かな隙間があいたとしても力を抜けばまたすぐに皮膚がぴたりと重なった。
「ックソ! 離れろや名前!」
「私の意思関係ないから…っ!」
「とりあえず、脇、移動しようぜ!」
完全に流れを堰き止めてしまっていたので切島の一言に廊下の脇に移動してからもなお、爆豪は名前の腕とを互いに引っ張り合っているが、辛うじて合わさっていた手のひら同士が手の甲になったくらいだった。
――彼女の個性は、彼女が触れた人が持っていた物やその瞬間に触れていた人同士に磁力を発生させるものだった。普段から両手で同時に触れないよう彼女の個性を知っている間柄としては互いに気を付けていたのだけれど、こればかりは不慮の事故だ。
「ほんとごめん名前ー! 長くても五、六時間くらいで絶対離れるから…!」
「ぶッハハハ! まじかよ爆豪!!」
「上鳴…お前あとで死ぬぞ」
「相澤先生の抹消で消えないかな…」
腹を抱えて笑い転げる上鳴を睨みつける爆豪の顔も相当で、彼も大いにこの不本意な状況から脱したいのだろう。当たり前だ。ただでさえ爆豪と、数時間はこのままなんて耐えられるわけがない。
藁にも縋る思いでその友人と共々職員室へと向かい、ゼリー飲料を咥えていた相澤に事の顛末を伝えた。隣でミッドナイトが青春、と身を捩っていたけれど、そんな面白おかしい話ではないので思わずげんなりとした顔をしてしまった。
「――まあ、無理だな」
「相澤先生…!」
「俺の個性は既に起こった事象に対しては意味を成さない。しかも彼女から聞くに、触れた時点で爆豪と緑谷に磁力が発生しているんだろう? 時間が経つのを待つしかないな」
「…そんな、」
「で、お前ら、授業どうするんだ。もう予鈴鳴るぞ」
まるで死刑宣告だ。
頭を抱えたいというのに右手を上げると爆豪の手もついてくる。
顔面にこれでもかと青筋を張り巡らせながら、彼は「こっちで受けるに決まってんだろ」と低い声でそう言った。
「私も、休みたくない」
「知るか、ンでわざわざ下の授業受けねえと何ねーんだよ」
「…ABCは学科の振り分けであってレベルわけじゃないんだけど」
「すげえ名前ちゃんが食い下がってる…ブフッ」
「…お前ら早く決めろ、進まん」
A組、C組と互いの声が被さってまた顔を見合わせた。
――いや、よくよく考えるとまだ爆豪や出久との関係性を知っているA組に飛び込んだ方が、後々に負う傷の程度は浅く済むのではないだろうか。これだけ何度も離そうとしているのにも関わらず全くもって離れない手の意味に、この個性をかけてしまった友人周辺には心当たりがあるのだ。それを、わざわざさらけ出しに行く必要はないのではないだろうか。
名前は繋がったままの右手を見下ろして、肩を落としてから相澤を見やった。
「…次の授業のテスト、何とかなりますか?」
「幸いに、A組の授業は俺だからな。授業中に解いたテストでもいいか、掛け合ってみるよ」
「有り難うございます」
「それじゃあ名前、六限の先生にも一応私から伝えておくね…」
本当にごめん、と再三の謝罪の後、彼女はC組に戻っていった。
――どうして高校生にもなって幼馴染の爆豪と手を繋いで廊下を歩かなければならないのだろう。市中引き回しの刑だ。恥ずかし過ぎる。出久と切島が前を歩いてくれているおかげでこちらを見やる視線こそ少ないが、隣に並ぶ爆豪のこれでもかというほどの不機嫌さに道が勝手に開けていく。それすら余計にこの繋ぎあった右手同士に視線を集める要因になるので止めてほしいのだけれど、最早このフラストレーションに爆豪の敵顔は留まることを知らない。
ゲームであればHPゲージが限りなくゼロに近づいたあたりでA組に辿り着いた。
ドアを開けて入るなり、クラス中の目が集まって左手で思わず顔を隠した。
説明をする間もなく上鳴が矢張り笑いながら状況をクラス中に話していて、次第に同情じみた目に変わっていく。
「見てんじゃねェクソ!」
爆豪は教室を横断して、自分の席に着くまでの途中で教卓の隣にあった余った椅子を引きずると、彼の机の隣に並べた。
「…地べた座ってろとか言われるかと思った」
「は? いうわけねーだろ、バカかよ」
「…うん、ありがとう」
ストンと腰を下ろして、勝手に爆豪の机の中から化学の教科書を取り出した。
もう腹もくくった。好奇の眼差しに顔は赤いままだが、数時間の辛抱だ。――それがどのくらいかは、考えたくはないので一度思考の隅に追いやる。
「…名前、左手で文字書けるの?」
後ろに座った出久が身を乗り出しながら問いかけてきて、チラリと爆豪を見る。
交渉の余地はない。くっついているのは現在手の甲同士。左手で拳を握って突き出せば、彼は目をすがめた。
「ジャンケン。勝った方が右手使っていいってことにしよ」
「…テストが悲惨でも文句言うなよ」
「そう思うなら右手を譲ってくれても…」
「ジャンケンつったのお前だろ」
ニヤと意地汚く笑った爆豪に、運でも勝てるわけがなかった。
三戦ストレート負けで、化学のテストは酷い字面の化学式と数字が踊っていた。
中学の頃から知ってはいたが、授業を真面目に受けるのが爆豪の長所でありみみっちいところだと思う。だからこそ成績がいいのだろうけれど。六限目のヒーロー情報学を耳に流しながら左隣をチラリと横目見る。右手が勝手に動いているのは、彼が丁寧にノートを取っているからだ。それが何だか気持ちが悪くて反射的に力を入れるたびに、コツンと柔く上履きの踵を蹴られている。右手を犠牲にしているのは名前の方なので多少のそういうところは優しく見逃してほしいのだけれど、授業をきちんと聞いている爆豪にとってはそれすら障害になるのだろう。何せ、彼の目は真剣だ。――あと一年と半年をかけて、彼はプロになるのだから、それも当然だろう。
手元の英語ノートを広げながら、今頃C組で綴っているのであろうスペルに息を吐いた。
仲良く――とは断じて言い難いが、机を半分こずつに分けて受けていた苦行もこれで終わりだ。チャイムが鳴った後の号令で机に額をぶつけるように乗せる。
「ちなみに、お前あのテスト五問ミスってんぞ」
「六限は英文法だったから、合わせて解説お願いします」
「チッ」
机に額を乗せたまま左隣を見上げれば、唇を突き出してさも不服だと謳う顔面に小さく笑った。授業の欠席が痛いのは普通科とて同じだ。等価交換と言えば、化学できねえくせに調子乗んな雑魚と悪口が倍になって返ってきたので彼にはそんなもの通用しないのかもしれない。
終礼を告げに相澤がやってきて、教室は一気に放課後特有の賑やかさに変わっていく。
「名前ちゃん大丈夫だったか?」
「え?」
「どーいう意味だコラ」
「そりゃ爆豪つったらクソを下水で煮込んだ男と定評がある――」
「歯ァ食いしばれアホ面ァ!」
右腕が彼の挙動に合わせて振られる。
後ろを振り返ると出久が取れそうにないねと苦笑いを浮かべていた。
「僕だったら良かったんだけどね」
「うん、でも、勝己君だから大丈夫」
「え」
「え?」
これが切島や上鳴だったらもっと気を遣ってただろう、とそんなことを考えながらの一言だったのだが、思いの外出久の驚いたような反応に似たような顔をしてしまった。それは頭上で攻防を繰り広げていた上鳴と爆豪も同じで、え、ともう一度動揺した声をあげた。
深い意味のない一言だっただけに、彼らの反応を計りかねて重ねる言葉もなく目を瞬かせていると、爆豪が唐突に帰ンぞと言った。
「え、うん…あ、待って。私C組に荷物――」
取りに行きたくないなあと、おそらく顔に出た。――一気に頬が熱くなったような気がして、出久の方に向き直る。
「ごめん、お願いしてもいい…?」
「うん、いいよ。席どこだっけ」
「窓際の三つ目」
了解、と出久が立ち上がる。
荷物を左肩にかけた爆豪の当初の不機嫌さは鳴りをひそめ、平生の険しい顔つきながらももうこの状況には慣れてしまったようだった。C組の下駄箱に誰もいなくなったタイミングで靴を取り替え、また彼に手を引かれながらA組の寮に帰る。
――側から見れば、そういう仲の関係にみられるのかもしれない。なんて、今更ながら気づいて俯く。心の中で違うのに、と呟いた言葉に身体が熱くなる程度には、あの冬の日の言葉が確かな質量を持って降り積もっていた。
玄関を開けて、靴を脱いで、早急に彼はエレベーターに乗り込んだ。
冷やかされる前にと思う気持ちは同じだったけれど、よくよく考えてみれば彼の部屋に行くのはこれが初めてだ。
(手汗、かきそう)
まだ本格的な夏には遠いと言うのに、エレベーターの中が蒸し暑く感じて息を細く長く吐いた。沈黙が痛い。
極力顔を上げないようにしていれば、軽快な音を鳴らしてエレベーターが止まった。
四階の奥から一つ手前の部屋。爆豪と書かれたネームプレートに、緊張する間もなくガチャリとドアが開かれる。
「…お邪魔します…」
どさっとカバンを置いた彼は、そこでようやく名前を見た。
「…っとに取れねーのな」
「……ご、めん?」
「あ? ンでお前が謝んだよ、クソデクみてえで腹が立つ」
ぺたりとカーペットを踏む感触に、じわじわと熱が上がっていく。爆豪はなんともない顔をしていて、それが余計に気恥ずかしさを引き連れてくる。ベッドに背中を預けて隣に並んで仕舞えば、顔を見ずに済んだのでひっそりと安堵の息を吐く。
――取れないのには、理由があるのだ。
友人曰く、名前と爆豪のどちらか、もしくは両者の間に存在する想念のようなものが、磁力の強さに比例するらしい。取れないのだと彼女の目の前で実演するたびに、そう言う目に見えないものの強さを曝け出していることになる。だから、C組には行けなかったのだ。五、六時間で取れると言った彼女の言葉は、最大値の話だ。個性訓練もしていない一般人の個性の強さなど一日と持たない。それを引き合いに出すほどには、強かったのだろうと思う。
膝を抱えて爆豪と反対の方を向く。化学も英語も、今は頭に入りそうにない。
ぐるぐると巡る思考回路に陥っていると、不意に右側に放り出していた手が動いた。先程よりはくっつく力は弱まってきていて、片方の牽引力で隙間が開くようだ。
――指先が触れた。驚いて右側を見ると、彼の大きな手が名前の手に覆い被さるように向きを変えている。個性のせいで硬くなった皮膚が名前の爪の縁を辿っていて、びくりと右手を引いた。彼の手も当然ついてきて、しかもその双眸は何かあったのかとでもいいたいようにはあまりに普通だった。
「な、に、ですか」
「日本語うぜぇ」
「急に、びっくりした…」
自分自身の騒々しい心臓のあたりを左手で掴んでいると、爆豪は何故か満足気な顔をしたあとにカバンから教科書を漁り始めた。
「モル計算ミスるなんざお前ほんとに理数とんのか?」
「へ、え……えっ? 化学、の話?」
「あ? 他に何があんだよ」
――狡猾だ。
二年待ってろだなんて、そんな不鮮明な言葉の奥に潜む言葉を飲み込んでおきながら彼はこんなふうに触ってくるのだ。名前だけではない不特定の誰かを守るための大きな手で、名前には柔らかく輪郭をなぞるように触れてくる。繋がった右手を嫌がるような顔と態度をしておいて。
なんて、ずるい人だ。
* * *
あからさまに面倒そうな顔をされれば誰だって腹が立つ。こんな馬鹿げた個性事故のせいで繋ぎあった右手に心底そういった顔をしたのだ。夜までには離れるから、と訳もわからないまま告げられた期間にどきりとしたのは相手が名前だったからだ。それ以外のモブであったなら痛いと泣こうが喚こうが切り離しにかかる。繋いでいた名前の手は熱いというのに、そんな温度差に苛立っていたのは事実だった。
それが、どうだろう。
授業中、名前は暇を持て余していたのかよく視線をこちらに投げかけてきた。その度に右手がつられて動くので仕返しに踵を小突いたところでなくならなかった。
僕だったらよかったんだけどねと笑った出久に対して放った言葉で眉間に皺が寄ったのは、彼女がその言動の正体を理解していなかったからだ。少なからず出久も上鳴もそういうふうにとっていたというのに、疑問符を浮かべる名前はまるで小学生だと思う。二年待ってろと言った言葉の曖昧さがここにきて弊害になるとは。少しはそういう意味だと思ってもらって一向に構わなかったのだが、名前も大概鈍かった。ただ、悪い気分ではない。教室を出て寮に向かう間何故か頗る静かになった名前は何度見ても顔が真っ赤で、左手に力が入る。
なんだその顔。言いかけて、やめた。首筋のあたりがざわつくのを宥めるように足を進める。リビングの方がまだ耐えられそうだとも思いながら、この状態の名前を誰彼の目に晒すのも気分が悪い。けれど、こんなに顔を赤くさせているのが紛れもなく右手のせいなのだとしたら、冬の言葉の効果はあったのかもしれない。
エレベーターの中で下を向く名前のうなじがあんまりに白くて――いや、二年待ってろと言った手前、耐えるべきは爆豪だ。右手と同じくらい名前の何処にでも触れたら熱いのだろうけれど、指一本だろうととも思う。
部屋に入って、どうしたものかとカーペットに座り込む。勉強なんてできる状況ではなかったのだが、名前がずっと反対側を向いているのが気に食わなかった。
引っ張ると、最初に比べると段々とくっつく力は弱まっているようだった。それでも力を抜けばすぐに張り付く。右手を返して、彼女の手の上から覆い被さった。
ちっちぇえな、と口をついて出そうになって飲み込む。こんなに小さな手で、爆豪も出久も、果てにはそのほかヒーローの傷を背負いたいと言ってのけるのだから、名前は昔から強かった。泣き虫ではあったけれど、頼りなくも硬い芯がこの小さな体の真ん中に存在していた。
「――化学か英語」
「か、化学がいい」
「ん」
そんな強くて小さな彼女が頼るのは、それが例え勉強であったとしても自分がいい。
二人の間に教科書を広げる。
名前の顔はずっと赤いままで、視線は爆豪の胸元あたりを彷徨っている。
そういえばこの部屋に彼女がいるというのも初めてだった。というよりは、爆豪のテリトリーの中に彼女がいることそのものが、数えるほどしかない。
「進路、決めたんだろ」
「! …うん」
「理数なら見てやる」
「う、ん」
分かんなくなったら聞きに来い。
名前は一瞬惚けた顔をした後、頬を緩ませるようにして笑った。
手の届く範囲に彼女がいる景色も、当たり前になるといい。
思わず力のこもった右手を見計らったように、ドアのノックとともに出久がやってきた。
名前の顔を見て出久が何か物を言いたげな目線を寄越してきたが、そろそろ妹離れ兄離れの作戦でも立てていったほうが良さそうだ。
それから夕方の六時頃まで繋ぎっぱなしだった右手は、気づいたらするりと離れていた。
もしかするとそれよりも前には個性の効果は消えていたのかもしれないが、知る由もなかった。