春が過ぎ、夏を追い越し秋を追いかけ、冬を捕まえた。
この先も変わらず、ずっと。当たり前のように当たり前にあり続け、それは揺るぎないもの。
そんなふうに、このまま繋がっていたいと。
「ねえ、秋」
「んー?」
穏やかな日差しが差し込む、優しい日のこと。静かな風が頬を撫で、隣に座る秋はうつらうつらとし始めた。ゆるく絡んだ指先は、僅かに彼のほうが温かかった。
「あったかいね」
「そうだな、」
「秋がいるからかな」
時折聞こえる冬の足音が、少し寒さを連れてくるけれど。それでも温かいと感じるのはきっとすぐそばに優しさがあるから。
秋は閉じていた両の目をうっすらと開け、ダークブラウンの瞳を彷徨わせる。夢と現実の狭間で揺らぐ瞳が、ゆっくりと彼女を見つめた。
太陽が雲に隠れて影を落とす。
それとは違う暗さが、名前の視界を奪ってしまった。刹那に感じる柔らかさに、思わず息が漏れた。
「…秋、」
「名前がいるから、春がきたんだよ」
秋にしては珍しいそんな言葉に、鼓動が高鳴る。不覚にもときめいてしまったのを顔に出さないように、それでも溢れる愛おしさに目を細めた。
僅かに微笑んだ秋はまた目を閉じ、名前の左肩に頭を預ける。重いよと笑いながら言えば、小さなキスで返された。
「…眠いの?」
「眠くはないよ」
「じゃあどうして目閉じちゃうの?」
「…んー、」
名前が眩しいから。
瞼に鼻筋、頬、首筋と柔く唇で触れて、それから名前を抱きしめると静かに呼吸をした。
「…秋じゃないみたい。きっと今が春だからだね」
ふふと無邪気に微笑んで、ひょっとしたら桜が咲いちゃうかもとおどけてみせた。彼女は秋の肩口に額をくっつけて、
「髪、赤く染めてみる?」
「なんでさ」
「だって秋は紅葉じゃない」
「……絶対ヤダ」
「春はピンク、夏は緑に冬は白!」
「死んでもやらない」
えーと不満に唇を尖らせ「絶対面白いと思うんだけどなあ」ともらす。そっと上を見上げてみれば、今にもまた眠ってしまいそうな彼がいた。
――ときどき不安になって仕方ない。いつかいなくなってしまうんじゃないかと、その表情を見るたびにどうしようもない苦しみを覚えるのだ。
どれもきっと、今が幸せすぎるから。失うことが何よりも怖いから。
(…セピアなんて、すぐいなくなっちゃいそうな色…)
そう思って伸ばした手が、彼の髪に触れる前につかまった。
「どこにもいかないさ」
どきり。
「…ほんとに?」
「ほんとに」
「どこにもいかない?」
「どこにもイキマセン」
「……約束だからね」
「――約束」
約束、と彼はもう一度呟いてから、彼女の額にキスをした。
きっとこの先も続くはずの未来を手放すことも、憂うこともないだろう。それはこの穏やかさが、君が隣にいるのが当たり前だから。
淡く消えてしまいそうな脆さを伴いながら、懸命に生に縋りつこうとするから。
だから君がとても綺麗に見えるんだねと。
微笑んだ君は、誰よりも何よりも――。
春の陽だまりのように、暖かい陽光のように。
いつまでも優しく、僕の近くで笑っているんだろう。
そんな、ある日の昼下がりのこと。
優 し い 日 々
(どこにもいけないさ)
(呟いた言葉は、きっと伝わっているよ)