等身大のわたしを、
※ 完結記念頂き物です。キスの次に進めない二人をイメージされたお話となっております。
好きな人と体を繋げることはとても素敵なことだと、思う。体の関係を持つことで文字通り深い関係に慣れるから。世間一般では、世の恋人たちは手を繋ぎ、唇を合わせたあと、照れながら肌を合わせるのだろう。
その一連の流れが素敵だと理解はしていても、自分がやろうとは思わなかった。
何故ならば、私が所謂性行為に苦手意識を持っているからだ。
潔癖症ぎみな性格を持ち、他人と心の距離の詰め方が分からない私にとってセックスは忌避するべきものでしかなかった。
それに、セックスは生殖行為としての意味を持つこともある。自分に自信がない私は自分の子供を産むことを考えられなかった。
だから子供を作る行為なんてものは、したくないし興味もなかった。
今まで男性とのお付き合いが全くなかった訳では無いが、そのような雰囲気になる前に別れていたのも理由の一つではあるが。
でも今は。緑谷さんという私には勿体ないほど真っ直ぐで優しい恋人が居る。
私と緑谷さんは"そういう行為"が出来ないでいるのだ。
目の前にはガチガチに私を意識した緑谷さんが居て。彼はきっとキスの次に進むタイミングを伺ってる。
初心な男子高校生みたいで、とても可愛らしかった。私からそっと触れるだけの口付けを施した。
今まで、何回かキスはしたことがあった。
緑谷さんとのキスは、とても心地が良かった。緑谷さんに抱きしめられて、距離がゼロになる瞬間は砂糖菓子を食べるより甘くて倖せな時間だった。
やがて触れるだけのキスから、舌を入れる深いキスもするようになった。
舌を絡ませて、お互いの呼吸を飲み込んでしまうんじゃないかと思うくらい深く深く。皮膚を隔てた他人から、緑谷さんが特別な人だと感じる行為。自分を無条件に肯定してくれる人に、本能が見え隠れした欲求をぶつけられると腹の奥が疼いた。
緑谷さんになら全てを委ねてもいいと思う気持ちもあるが、やはりその先に進むことを考えると恐怖の方が大きかった。
先を意識しすぎて挙動不審気味な緑谷さんに声を掛ける。
ひぇっ…!なんて声をあげて大袈裟に反応する緑谷さん。
「話が、あるの」
※※※
性行為に対する考え方を彼に伝えた。あまり、得意じゃないということも。すると、彼は何か考え込んでしまった。そして、少しの沈黙の後、私の目を真っ直ぐ見詰めて口を開いたのだ。
「君がこの先に進むのを嫌がる…いや、怖がるのはなんで?」
「だから、それはさっき話したけど」
「それは上辺の理由だろ?」
時計の秒針の動く音が、やたらはっきりと聞こえた。
ああ、この人は。なんて優しい人だろう。何処までも私に真っ直ぐ向き合ってくれている。そして私の脆い心の防波堤を無理やり超えてしまうのではなく、壊そうとしてくれている。
これは、優しさという名の甘い毒だ。このまま摂取し続けていたらきっと依存する。
強い口調で指摘されて、本当のことを話してくれと懇願されて、私はぽつりと言葉を零していた。
「……ほんとうに、怖いだけ」
「こわい?」
「全てを緑谷さんにさらけ出すことが、こわいの」
「え?」
「私は傷もあるし、肌だって綺麗じゃない。メディア露出してる緑谷さんの同級生ほどスタイルも、良くないし」
「……」
「全部、見せたら、幻滅されるんじゃ、ないかって、思って」
「そうか、でも」
─────僕は君だから、抱きたいと思うんだけどな
私はなにか壮大な理由をつけて緑谷さんに全てを見せて、幻滅されることがただただ怖かったのだ。それは過去の失恋も大きな要因の一つだし、日々の自分の自信のなさが積み重なって膨れ上がった感情のせいでもある。
でも、緑谷さんはその負の感情ごと受け入れてくれて、「君だから」と言ってくれた。
この人なら、大丈夫な気がする。
私は大きく深呼吸をすると、緑谷さんの肩に頭を預けた。
「緑谷さんなら、いいよ」
「……っ、あのさ、いきなり全部とかじゃなくて、少しずつ、慣れていこうよ」
「え?」
「僕もそんなに経験ある訳じゃないからさ」
「……えっと」
「あはは、逆に君の方が僕に幻滅しちゃったかな?」
「意外だな、と」
「え?」
緑谷さんはきょとんとした顔をして少し上擦った声で聞き返した。
私は黄色い髪の電気系ヒーローを思い浮かべた。彼はよく週刊誌にすっぱ抜かれてるから。
「ほら、チャージズマとか…」
「あー…彼は別というか……僕が経験少なくて幻滅した?」
「っする訳ない!」
「同じだよ」
「え?」
「僕も、君がどんな姿だろうと幻滅する訳ないよ」
こつん。と額をくっ付けられて、そのまま触れるだけの口付けをされた。
「ね、少しずつ一緒に進んでいこう」
優しさという名の甘い毒。きっと私はもう、とっくの昔に彼なしでは生きられない体になっていた。
『等身大のわたしを、』
──────────あいして。
* * *
Twitt相互フォロワーのあんなさんより、『倖せ』完結記念に頂きました。
この度は素敵なお話を有り難うございました!
title by 『確かに恋だった』