迎えの車内の空気は、最悪だった。過ち、と断じるほど清々しくなどなれない。心の底にわだかまるものがあって、二人ともそれに苛まれていた。
「どうかしていた」。迎えを待つロビーで彼の顔を見た時、それが共通の認識であることを察した。
その後、悶々とした日々を過ごしたのは、しかし三日程度だった。ささくれた気分も次第に薄れ、まあそういうこともあるよな、とやけに気持ちが落ち着いた。
互いの家のことなど鑑みなければ、ただの16、17歳の男女だ。彼に恋人、いわんや許婚がいるなどという話も聞かない。仮にいたとすれば、彼は私とは寝ない。
なんといっても、加茂憲紀なのだから。

『私が君に働いた無体は到底許されることではない』

届いたメッセージは四日目の朝のものだった。どこまで貞実なのだ、と彼の過ごしたこの数日を想って、頭を抱えたくなった。
彼のことだ、どう責任を取るか、などと考えたかもしれない。そしてその八方塞がりの末の、先の言葉なのだろう。

『後悔してますか?』

どう返すか考えあぐねて、やっと返したのは昼休みも終わる頃だった。すぐに「開封済み」のテロップがついた。

『している』

悩んだ素振りなどない早い返事にぎくりとした自分が情けなく思えて、とっさにメッセージアプリを閉じた。

『君を傷つけた』『悔やんでも悔やみきれない』

ロック画面に続け様に表示された言葉に、その時私が浮かべた表情は、思い出すのも後ろめたい。

『傷ついてません』
『君の秘密につけ込んだのは私だ』
『共犯でしょう』

予鈴がなって、携帯をしまった。
返信が来たのはその日の夜遅くだった。

『未だ過ちだと割り切ることのできない私は愚かだろうか』

胸の内のざわめきが、ため息を震わせた。
彼はもう、取り繕うのをやめたいのだとわかった。なぜなら、思慮深い彼は、自分の内面の評価を他人に委ねるような真似はしないので。
また、これは彼の賭けなのだとも思えた。熟慮の人だ、可能性が未知の博打には出ない。勝算が立つだけの浅はかさを、私に見込んだのだろう。
つまるところ彼は、彼の言うその愚かさの責任の所在を、自分以外に見つけようと足掻いているのかもしれない。

『私は後悔してない。私が浅ましいのは、私のせいじゃない』

それだけ送って、電源を切った。返信を見る気力はもうなかった。
心臓が波打つ、なんて表現はあるが、そんな可愛らしいものではない。あの夜の記憶が際限なく反芻されて、体が熱かった。

『わかっている』

翌朝、ロック画面に表示されていたのは、その一言だけだったが、それで十分だった。
彼もまた、私の浅ましさの元凶として、身をやつす覚悟があるのだ。


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