チョコ後
どうしても職場でも会って、また顔を合わすのは気恥ずかしいものしかない。夕方の市場で水水鷄を買って、水水ナスと…と、安いよと声に惹かれて買ったパンを持ち込んだ。そんな事で作り始めたの水水鷄の香草焼きに野菜スープというありきたりな料理であった。パウリー宅で顔を合わせた瞬間お互いに一瞬顔を逸らした。その沈黙をなかった事にするように、別の話題を話にしながら作った料理を、パウリーは美味いと言いながらフォークを何度も料理と口への往復をしていた。しっかりとご馳走様と平らげて満足そうな男がいる。デザートというならそれで良いだろうかと、洗ったばかりのフライパンでラッピングを解いたフォンダンショコラを二個簡単に転がして温めていく。
「どうした?」
「あー…、そのまま待ってて」
食べ終わったのにも関わらず何かをしようとする私に声をかけてくるパウリーは席を立とうとしていた。お願いだからそのまま動かないでくれと伝えれば、椅子から腰を上げようとしていたパウリーは再度足を広げて座り直す事になった。
「…はい」
「これ」
「…別に、食べたくないならいいよ」
「食うに決まってんだろ、つーかこれよ」
「フォンダンショコラ」
「フォンダンショコラ?」
「知らない?温めると美味しいの。フライパンで蒸しつつ転がしただけだからどうなってるか…」
小さめのお皿に乗せた熱々のフォンダンショコラ、本来なら中のチョコレートがいい感じに溶けるように交わって食感、味と共に私の好きなお菓子でもある。好きな事になると少し饒舌に説明をし始めそうな口をそれ以上は噤むことになった。
「これあんたが作ったのか?」
「…」
「おい」
パウリーのどこか驚いたような、言い方を変えれば間の抜けた顔から目を逸らす。さすがに自身で作ったものをお店というのも恥ずかしい。何も言わずに食べてくれれば良いものの…と思いつつパウリーにフォークを持たせた。
「早く食べて」
「っとに、おれが言った通りじゃねぇか」
気まずい私は一歩後退した、けれど許されなかった。急に宙に浮くとは思わなくて悲鳴に似た声を上げた。次に着地したところは椅子に座るパウリーの太腿の上であった。
「っ、ちょ」
「…割ると中とろとろだな」
「っ、そうなの、はい」
パウリーがフォークで割ったフォンダンショコラ。真ん中から良い具合に蕩けたチョコレートが顔を出していた。ふわりと香る甘い香りに毒されていくようでならない。半分に割ったフォンダンショコラを手にして、パウリーの口元にチョコレートが垂れないようにと手を添えつつ持っていけばパクりとかぶりつく大きな口がある。
「うめぇ」
「ふふ、良かった」
無精髭なんだかどっちなのかはわからない、そんな髭を生やしたパウリーとこのようなチョコ菓子は少し似合わない。美味いというパウリー、その左手が私の背中を支えている。そしてまとめてあった髪の塊をくいっと引っ張られて僅かに上を向いた。上を向いた先はパウリーの顔であり、視界が一気に暗くなった。目を閉じたとかそういう事もあるけれどだ。そして離れて、持ったままであった少しのフォンダンショコラを口元に持っていけば私の指先ごとに口に含まれてしまった。
「…もっと食わせてくれ」
「…二個とも?甘過ぎるよ」
「無理だ、もっと食いたい」
パクりと唇ごと口に含まれて、そして唇割ながら出会う舌先は今日はひたすらに甘い。舌先から伝わる甘さが痺れさえしそうな甘さに変わる。繋がっていた場所を離して、もう半分と残りのフォンダンショコラを口に運んであげては、飲み込んだと同時にもう一度、更にもう一度と唇を重ねた。
「…ビターにしたんだけど」
「甘くしか感じねぇわ」
「やっぱり?」
そして確かめるように厚みのある肩口に腕を回しつつ唇の端についているチョコレートを舐めてみればほろ苦さがあった。ちゃんとビターチョコ使ってるじゃないと、もう一度味わう事にするのだった。