触れた後は沈むだけ

 邪魔だ。裏の部分が少し道を逸れれば露わになる街でもあった。あからさまな敵意と値踏みの意思がある視線、薙ぎ払えば足元には気を失わせた男らが倒れていた。

「…ゾロ」
「あぁ?向こうからだろうが」
「うん、分かる分かるよ」
「安心しろ、峰打ちだ」
「うん、それも分かってる」

 何で宿だかを借りるだけなのにそうなったんだろうね、と背後で頭を抱えてるナマエの姿があった。諦めが終わったナマエが、えー、じゃこっち方面の方がまぁ絡まれないかなと指示を出す。その都度、細い路地に入るたびに絡まれるようなカモになりそうな女連れ、向こうにしちゃァ狙い所っつー訳だろうよ。金銭含め要求してきそうな奴らを片っ端からのしてやれば、あまり騒ぎは起こさないでと横槍が入ってくる。

「あ、これで海岸側じゃん」
「そうだな」
「うわぁ…あっちみてゾロ!きっとナミ達がいってた景色じゃない?」

 景色なんざどうでも良いだろうがと思うこちら側の気持ち知らず。先に歩くナマエは海風に靡く髪を手で抑えつつ、段を作りつつの色々とりどりの建物が綺麗だと指をさしつつ喜んでいる。さっきの様子から一転したその姿に拍子抜けだ。

「…なんかもう景色見て帰れば良くない?」
「良いと思ってんのか?」
「ぅ…、絶対ゾロ、そのアレじゃん…」
「アレって何だ」
「いや、うん…ぁーー…あほ体力っていうか」
「おら、宿あったな、入るぞ」
「え、…うん」

 どう考えても聞いてないでしょ、と言いながらも食い下がる様に服を引っ張ってくる手がある。コイツが求めてくる様な情緒がねェっていうのは分かる、がどうしようもない話だ。求めるのもお門違いっつー話だ。
 宿屋の親父と必要最低限の会話をしてその場を抜ければ、歩幅の違う足音が忙しくなく近づく。

「ぞ、ぞろ…っ」

 重い音をたてて閉ざされた扉、目の前にはどうにかいつも通りの会話をしようとしている女がいる。知らぬ間に伸びという髪は未だ切られる事はない。まどろっこしく、そして鬱陶しさのある視線の割には、気分は悪くねェし、むしろ掻き立てられる欲が湧く。細い手首を掴めば痛いだの何だのひん曲がる口がある。

「っと、だから力加減…」
「うるせェな」
「ん…っ」

 急速に口に広がる鉄の味。目の前には見開いたままの抜けた顔、どこのどいつが情緒っていう話だ、情緒なんつーもんは絵空事すぎるだろうがと投げやりになれる。口の中で滲んだ血、おれかコイツかは知らねェが、戦いの最中にも感じるその味はそちらの方が馴染みが深かった。互いにひそめた眉、殴り合いのようなその様は確かに色気のあるものとは程遠い。どすっと胸元を叩かれ解放すればおれの方の口が切れていたようで、ヒリつく部分を舌先でなぞった。

「…ゾロがちゅーした…」
「なんだよ」
「知らないと思って」
「バカにしてんのか」
「いや、無理…、刀バカじゃん、身体鍛える事ばかりの脳じゃない…っ」

 無理だと言うくせに、人の胸元の服を掴んだまま離すことはしねェ奴。普段こちらが返事することを待たずに喋り出すようなコイツがやけにしおらしくみえる。散々船の上では、寄りかかりつつ今回の男はなかったんだよねと呑気に呟いていたりもする癖にだ。
 コイツがおれの事をどう思ってんのか知らねェ、ただ逃げていかないだけを良しとすりゃァ、もう止まることはなかった。
 噛み付く様に口を閉じればさっきと変わらず血液交じり、舌先からは戸惑いさえ感じそうな固まった舌がある。コイツにしちゃ本望じゃねェだろう行為、己としても今までの関係を踏み躙るような事だ。きっかけはコイツの一人での欲の発散からだけれどもだ。他の誰でもいいんだろうが、と言っちまえば良いもののそれを言うことは躊躇われた。拒否されねェのをいいことに、血液混じりの唾液が絡み合う。鼻にかかるような息が抜けていく。逃すわけねェとばかりに指先を首の裏から頭皮に伸ばせば、角度変えた口先はより深く合わさる事を知る。また胸を叩く拳を握り返せばすっぽりとおさまっちまって、その小ささに改めて苛立ちを覚える。そして思いの外、離すことが惜しく思えた。

「…息止まる」
「止まるか、鍛えがたりねェ」

 恨めしさすらある濡れた目線をよこしつつ、こちらの腕にかかる手のひらは遠慮がちだった。そして今更だが部屋入ったばかりである事、扉に追い詰めたような行為に己のくだらない欲求を知る。
 昨日触った肌に触れみたく、服の下に手を入れようとした。

「まっ、ここでおっ始める気じゃないよね!?」
「悪ィのか?」
「せ、せめてベット…」
「別に場所なんざどうでもいいだろが」

 真っ赤な顔して、よくねェだの何だのほざく小うるせェ女。呆れる程によく舌が回る、が唇でおさえれば何も言うことなくただ回らなくなる舌先がある事を知った。ゾロの欠伸って本気で何でも入りそうなくらいに大きな口するよね、今度なんか突っ込むわと笑っていた口がある。それを己の口で覆い尽くして言葉を奪えれば楽に越した事はない。こりゃイイ、とばかりに荒い息が混じるなか、飾りのついた服の上から昨日触らされた場所を掴めば邪魔そうな弾力が布越しに手のひらに伝わる。本人にとっても邪魔だという部分は、己の身体にはない部分。けれども、それを手にするだけで何かが昂ると気付き、そして過ちだと分かりつつも止まる手はなかった。

 
「ッ、と…私が馬鹿だった…ッ」
「今更気付いたのか」
「絶っ対、私の言ってる意味と違うんだけど」

 散々昨日ここが良いとばかりに腰を揺らしていた癖に、そこを触れば抵抗するかの様に何度も身体を強張らせていた。どう考えても昨日よりも騒がしい事になっている目の前の身体を扉に押し付ければ、目を最大限に丸くしていた。

「いやまじで…無理」
「昨日言ったろ、入れる」
「まって、せめて私が上に!ベット…っベットいこ…」
「待てねェよ」
「前と後ろ間違えられたら死ぬから!…っ、やっぱむり…っ!その、入れるなら、私のペースで…」
「入るところに入るだろ」
「よくないぃ…ッ」

 乱れた衣、そして己の手は昨日と同じ様にふやけていた。ひっきりなしにこちらの胸元を掴んでくるせいで、負けじ劣らずに引っかかたよう状態になっちまっていた。手をつけと言や、違うって言ったらやめろだの文句を付けてやまないナマエがいた。



「ぁー…っとに…やっぱこっちも体力バカじゃん…」
「これくれェ普通だろうが」
「あのね…、普通の島の男はこんなにもたないの」
「ヤってきた男が軟弱だったんだろ」

 皺だらけになったベットの上、あぐらをかくおれの目の前には、尻を出したまま怒る姿がある。うたうだと今は言うくせに、いれりゃァ言葉を発する事が少なくなる唇。いつの間にか口の中を噛んだとの事で、時折自身の指先を口にもっていく姿がある。ショートパンツは性に合わねェとかなんとか言う女は、今日も今日とて足首まで隠すようなパンツ姿であった。そんないつも隠された太腿は年がら年中海にいるくせに陽の光を感じねェ色をしていた。

「まって、夕方…」
「そうだな」
「じゃ、帰らないと」

 不意に雲が陽を遮り、窓からは一瞬の影が作られた。それにつられて外に目をやるのは普段ならば天候を気にする海に出ているからだ。その雲はすぐに流れ、再び同じような日が差し込むが、それはこの部屋に入ってからよりもより褐色に近付いてはいた。

「あぁ、もう一度ヤってからだな」
「はい?」
「もう一度ヤ…」
「聞こえてる!まって、か…」
「てめェがうるせェから勃った」
「意味わからない…ッ」

 何も身に纏わずにいるその姿に寄れば、そのままベットを転がろうとしていた。腰に手を回せば、ほんとこれ以上立てなくなるのだと言うナマエの唇を奪いとれば、文句も全てが消え去っていく。触れる舌先、わずかにジンジンと神経が敏感になる口内で絡み合う舌、ンなもん触れて何がおもしれェのかは分からねェ。が、結局悪くねェ、というところに落ち着く。なによりも、下のやわらけェ開口部で根こそぎ吸われていく感覚は今までにないもので、これは何度でもいけると思った。そしていつもは見ない姿が露わになるのも気分がいい、他の野郎の名前が出てこないところもだ。
 背後から突けば、顎を突き出しつつ、こっちの名を必死に呼んで、うめき、甘えただすような鳴き声を聞きたくなるのは本能か。出来上がった軀、まだ熱が残る部分に指を沈めさせりゃ、また手のひらで口を抑える姿がある。もうここまでしてしまった、戻れるわけねェだろが。甘い香りを吸いこみつつ拗らせかけた本能のままに押し潰した。