新入生の財前をテニス部に入れたくてみんなで必死になって、あの手この手を使いようやく入部してくれた時は素直に嬉しかった。まあ、結局財前に遊ばれてただけなのだが。
あの性格じゃ馴染むのに時間かかるかと思いきやみんなは構いたがりで、財前もさほど嫌がっていなくて仲良くできていることにほっと胸を撫で下ろしたもんだ。
とりわけ構いたがりだったのはクラスメイトの忍足謙也である。誰にでもそうだが特に財前の事は気に入っとるなくらいにしか思っていなかった。ある時から、友達というよりかはあの雰囲気って…と勘ぐってみたりもした。
確信にかわったのは謙也の『ついうっかり』口にしてしまった事で決定的となる。「怒られるから今のは聞かんかったことにしてな!」と口止めもバッチリ。空気からしてみんな薄々気がついてるんは教えんといた方が良いんかなと言わずにいた。
はじめはお互いに本気なんかって疑ってたけどどうやらそのようで、同性で部内で色々心配はしていたがどうやらその必要もなさそうだ。財前が来るまで謙也は俺にベッタリだったのに口を開けば「財前が、財前は、財前と」寂しく思っているのは内緒である。
部活中も謙也がミスしてそれに笑って、いつもなら「白石〜見てへんと助けてや!」なんて言っていたのに今じゃ「ほんまダサいっすわ」「なんやて!」とジャレあうのがお決まりになってきていて、それを見ているとどこか置いていかれた気分になる。
「おい白石」
「ん、なんや?」
まさにちょうどその二人を見ていると珍しくユウジが真面目な顔をして近づいてくる。
「しけた面してんな」
「しけた…?」
なんのことやわからんくて答えに戸惑っているとユウジは続けた。
「顔に、謙也離れができません、って書いてあんで」
自分の右手で右頬をちょいちょいとさす。
「なんやそれ」
ははっと笑ったもののドキッとした。
そうなのだ、謙也に彼女だろうが彼氏だろうがこの際関係なくて、この思春期に誰かと付き合うこともあって、そうなれば恋人優先になるのは仕方がない。だからといって自分達の関係性が崩れるわけでもないのだ。
「ま、気持ちわからんでもないけど」
謙也は素やろうけど財前は計算っぽいよなー、と呟くユウジに思わず頷いてしまった。財前は謙也の近くにいる時、ちらりと周りに自分の物だと言うかのように周りを見渡すのだ。
誰も入る隙はないって言われてるみたいで、やから余計に寂しいんや。
「蔵りん」
「小春ぅぅぅぅ」
「お前やない」
抱きつこうとするユウジにすぐさま突っ込む小春、さすがと言うべきか。
「なんや小春まで」
「蔵りんとの関係がこわれる事なんてないわよ」
「おん」
「それに蔵りん、うちらがおることも忘れたらあかんで」
その言葉にハッとする。そうや、俺は謙也の友達で、みんなの部長で…、なんや感動しかけていたのに千歳が意味深な発言をしながら優しく頭を撫でた。
「白石、寂しいなら俺がその隙間埋めちゃるけん安心しなっせ」
「いや、間に合ってます」
「それは残念ばい、いつでも声かけてよかよ」
思わずお断りをいれると肩をすくめられた。
なんや、いつもと少し違うだけで何も変わらへんやん。なにセンチメンタルなってたんやろ。
「謙也ー!財前ー!そろそろ休憩終わりやでー!」
俺は友達として二人を応援していきたい。