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更新 2024/11/13

お題「清らかな運命はこぼれ落ち」に 姜維 追加

以下、話の設定


古代中国では「月には五百丈(約1.5km)の大樹がある」とされ、月にある桂樹=月桂樹となったそうです。話のベースは三つの神話で成り立ってます。

一つ目は「楚辞」の天問篇に出てくる羿射九日いしゃきゅうじつです。ざっくり説明すると、はるか昔に后羿こうげいという大変に弓が上手な豪族の男がおったそうで、その男には嫦娥じょうがという女仙の妻がいました。ある時、天帝から「十個の太陽が出てるから何とかしてくれ」と頼まれた后羿は、十個の太陽の説得を試みるものの、彼らはまるで意に介さない。そこでとった手段が一つを除いてすべて撃ち落とすというもの。ちなみに文中の「彤弓」は赤く塗られた弓のことで、「素矰」は白羽の矢のこと。弓の方は読みがわかったのですが、矢の方は調べても出てこなかったのでどういう物かという説明を載せました。

二つ目は「淮南子えなんじ」に出てくる嫦娥奔月じょうがほんげつです。上の話に続いていますが、天帝の怒りを買った后羿は妻の嫦娥と共に地上に落とされ、仙籍(仙人の証)を取り上げます。不老不死を失った二人は西王母に頼み込み、霊薬を一つ授けてもらいます。「半分飲めば不老不死に、すべて飲めば天に帰れる」というもの。天に帰りたかった嫦娥は夫に黙って一人で飲み干してしまいます。その後は夫への不義理を申し訳なく思って月に留まったとも、夫への仕打ちに怒った西王母に蟾蜍せんじょ(ヒキガエル)に変えられて月に送られたともされています。

三つ目は「酉陽雑爼ゆうようざっそ」に出てくる呉剛伐桂ごごうばっけいです。昔、仙人になりたいと思った呉剛という木こりの男がいました。しかし呉剛は怠け者で、仙人の修行を怠ってばかり。それを見た天帝が「木を切り倒せたら仙人にしてやろう」と約束し、彼を月に送ります。大樹でも所詮木、と刃を入れますが、木肌は瞬く間に治ります。何度刃を入れても次の構えを取る間に治ってしまい、ちっとも進みません。それでも仙人になりたい呉剛は今でも斧を振るっているのだとか。

楚辞は戦国時代(紀元前5世紀-紀元前221年)に成立、淮南子は前漢時代(紀元前179年-紀元前122年)に成立してますが、酉陽雑爼は唐時代(860年)成立と実は時系列がバラバラなんですよね。ですが月桂樹が中国の日本読みされたものだと知り、どうしても神話と織り交ぜたかったので時系列はまるっと頭から落としました。公式でもオロチとかやってるし許して……。以下、設定の説明になります。遅くてすみません。

夢主の参考になったのがお察しの通り嫦娥という女仙です。元々彼女は仙人だったのですが、夢主が「何故夫を裏切ったのか」という理由に紐づけるため元は人間ということにし、夫を仙人だった設定にしました。貧しい生まれゆえに生きることに執着が人一倍強く、結果夫に不義理してしまいます。桂樹から落ちる葉を延々と縫い付けてるというのは呉剛の話を持ってきました。そして葉と花の説明ですが、事実二つには毒があるそうです。ただし犬猫といった動物に有毒なだけで、人間には無毒とのこと。これを持ってきて「仙人には無毒だが、人間には有毒」としました。最後に姜維に嘘をついて花を食べさせていますが、それまでの別れ方とは変えました。金粉に包まれてゆっくりと溶けて消える=月世界での死を表しています。では何故嘘をついて別れたのか、それは彼が人間で自分は仙人だから。本来交わるはずのない自分たち。だからこそ関係を終わらせ、それぞれの場所で生きると決心したためです。大罪を犯し、後悔に苛まれて永年生きてた夢主が、夫の面影を残す姜維に恐れつつも惹かれていく過程が描けていれば幸いです。

余談ですが、雰囲気に合わせるために中国の色を文中に使っております。黄緑が葱なのは、葱の古名が「き」であるからです。