書庫の整理がてら質問を投げてみた。
「―――荀ケ殿っていつお生まれになったんですか?」
黙々と作業することに飽いた私が棚から顔を出すと、さながら郭嘉殿が面倒なことを言い出した時のような呆れ顔を向けられた。
「いーじゃないですかあ。朝から作業しててまだこんなに残ってるんですよ?飽きもしますって」
出仕したはいいものの、今日の仕事内容は手付かずな書庫の整理。四方八方駆け回るよりずっと楽だが、掃除もされていない埃だらけの空間で長いこと手だけ動かすなんて飽きないわけがない。「はっきり言うものではありません」と窘める彼だが、そう言うってことは彼にも理解を示す部分があるんだろうと思った。
「で。いつなんです?」
「聞いても面白くないと思いますが……」
「これより面白くない話なんてないですよぉ」
手にしている丸めた竹簡をひらひらさせれば、彼は目を瞬かせた後にふっと笑みをこぼした。真面目だ堅物だと言われる荀ケ殿だが、意外にも俗な一面がある。真面目なのはそうだが、堅物ではない。堅物というのは于禁殿を指すのだ。
「覚えていません」
その返事に思わず声を上げて驚いてしまった。口を開けたまま愕然とする私に、彼は目を瞬かせる。
「それほど驚くことでしょうか……」
「そりゃそうですよ!まさか荀ケ殿ほどの方が自分の生まれた日を覚えてないなんて。祝われたりしないんですか?」
「記憶はあるのですが、いつとまでは」
「……もったいないですね」
そう落とした私に、今度は荀ケ殿が訊ねる。
「だって荀ケ殿の誕生日を祝えないんですもん」
「そういえば名前殿は酒宴がお好きでしたね」
「それもありますけどぉー……。―――あ、そうだ!」
妙案が閃き、手にしていた竹簡を適当に置いて彼の両手を取った。ぽかんとしている荀ケ殿に前のめりになって続きを紡ぐ。
「それなら今日を荀ケ殿の日にしましょう!」
「今日、ですか?」
「今日です!そうと決まればさっさと仕事終わらせて飲みに行きましょう!」
どうせなら郭嘉殿や賈詡殿、部屋に篭もりっぱなしの荀攸殿と満寵殿も誘って近場の酒屋に行こう。きっと楽しい酒宴になるに違いない。顔馴染みの店を選んで寿桃包でも用意してもらおう。長寿を願って、とかそういう言い訳なら通るかもしれない。一人うきうきしていたらふと荀ケ殿に名前を呼ばれた。
「―――ありがとうございます」
梢についた小さな蕾が開くような笑みだった。ささやかに綻ぶ彼に、自然と自分の口角も緩んだ。
「いーんですよ。私、酒宴大好きですから」
願わくば年を越してもみんなで祝えますように。