無双5ベース



澄出仕して早々「面白いものが見れるぞ」と我が主から呼びつけられ、己の執務室に向かう脚は主の房の前で止まる。扉の前で名乗ると「入れ」との返事がし、閉められた扉を押した。房の中には曹丕殿と女が一人。

「その女性は?」

普段であれば女の一人など目を止めるまでもないことだが、今回ばかりは違った。そうせざるをえなかった、というべきか。小柄なその女は見慣れぬ衣をまとい、あろうことか下腿を晒している。妓女かとも思ったが、そうであれば自分をわざわざ呼びつけ、披露することもないだろう。彼に説明を求めたのだが、口を開いたのは女の方だった。

「ねえ子桓様、この人がシバイさん?凄い髪綺麗!女性みたい。椿シャンプー使ってそう。あ、でもこの時代はシャンプーとかないか。多分。じゃあ素であれってこと?やば。女の自分よりうるつやさらさらなんだけど。どうしよう美容院行きたくなってきちゃった」

「……なんですこの女は」

「女曰く未来から来たそうだ」

「……は?」

あんまりな言い分に思わず素が出てしまう。目を丸くした自分を笑ったのは女だった。品なく口を開けて笑い、男である自分を嘲るそれは確かにこの時代の女らしくないものだった。相当な変わり者でもなければ、男を嘲る女などまず居ない。

「馬鹿言ってるのか思うけどほんとですよお。この服はセーラー服と言ってこっちの時代では学生服ですし」

「……この奇々怪々な言い分を聞くに、確かに時代を違えていてもおかしくないですね。ですが敵国の間者である可能性も否めないのでは?」

「だからお前を呼んだのだ。この女の世話を任せる」

「は?」

「お前に宛てがった女官が辞めたばかりだろう。ちょうどいい、この国のしきたりを教えると共に好きに躾ろ」

つい先日補佐の一人が辞めたばかりで空いていたが、かと言って素性不明な異邦人を傍に置くとはならないだろう。普通は。体の良い厄介払いか、と睨んだ自分の考えを両断するように鋭い視線を送られ、鼻の上の皺を伸ばす。本意を言えば不服この上ないが、愉しげといわんばかりの表情を見せる今の彼に言を撤回させることは至難極まりなく、その立場を鑑みてもこちらが折れるしかない。何故朝から頭が痛むような目に遭わねばならぬのか。拱手する私に女が笑う。

「苗字名前と言います。よろしくお願いしますね、シバイさん。仲良くなった暁にそのうるつやヘアーの秘訣教えてもらってもいいですか?」

不安定な発音と人畜無害も一周回り逆に有害な笑みを見て目眩を覚えた。