いつも自分ばかり弄ばれているので、たまにはこちらから反撃してみようと意を決した。今日こそ積年の恨みを晴らす時。善は急げとも言うし早速彼を探すと、右往左往することなくすんなり見つかった。幸運なことに彼は一人で居た。今しかない。

「奉孝様ー!」

名前を呼んで駆けると、それに反応して彼が振り返る。動作に色彩の薄い髪がさらりと揺れ、耳飾りが陽光を跳ねてきらりと光った。

「名前から声をかけてきてくれるなんて嬉しいね。どうしたんだい?」

「えっ。えーっと、奉孝様を見かけたから挨拶しに来ました」

穏やかな微笑みに見蕩れてる場合じゃない。決意したはずなのにいざ対面すると、こうも緊張するものなのか。銅羅を叩くようにうるさい心臓を抑え、密かに息をつく。

「あの、奉孝様……。ちょっと屈んでくれませんか。内密の話がしたくて……」

「いいよ」

にこやかな笑みを浮かべた彼は軽く上半身を曲げる。鼻先を彼の匂いがくすぐり、心臓がまた騒ぎ出す。頭が熱くなるのを感じながら一思いに彼の唇に自分のそれを重ねた。肌の触れ合いに消極的だった私の突然な行動に、彼は驚愕を露わにする。達成感が胸を衝いた。

「いつもの仕返しです!」

自分だけいいよう遊ばれてるのが気に入らないという子供じみた動機だが、飄々とした態度が崩れることのない彼のこんな一面が知れたから大満足だ。

「奉孝様って驚くと可愛いんですね」

「―――それはどうかな」

腰に回された腕によって引き寄せられ、何かを言う前に唇は塞がれてしまった。予想だにしない反撃に身を引こうと藻掻くも、後頭部まで抑えられてしまっては動きようもない。唼むように触れる熱に耐えかねて、唇の合わせにほんのわずかな隙間が生じる。空気を入れるつもりだったのに、彼の舌が入ってきて自分のそれを容易く絡めとってしまう。

「んんっ……!」

溶け合うような口付けだった。口蓋を舐められた刹那、足裏からぞわぞわしたものが駆け上がり、肩が震えた。ぎゅうっと目を瞑る。後頭部を抑えていた手が髪を辿り、耳の裏をさわさわと弄ぶ。与えられる彼の熱に体の奥がかっと熱くなり、疼くような痺れが腹の中に溜まっていく。彼の胸を押し返していた指先は丸められて皺を作っていて、立っているのもやっとだった。脳が茹で上がりそうに感じた時、唇が離れていく。私と彼との間を細い糸が繋ぐ。意識を浮かせた状態で見つめる私に、彼は薄く笑んだ。

「うん。やはりあなたの方が愛らしいよ」

とてもね、と耳元で低くささやかれ、全身が燃えるように熱くなる。滅多なことはするもんじゃないと、愉しげに笑う彼を見て反省した。