言うならまさに混沌だった。
「おっ、やっと来たな!今日は俺と周瑜の奢りだ、存分に飲め飲めー!」
「あ、だったらあたし饅頭食べるー!」
「こら、小喬。駄目ですよ、名前様を差し置いて食べ始めたりしては……」
「えー、じゃあ名前早くこっち座って!」
「孫策。君は少し酒を飲む手を弛めた方がいい、早すぎだ」
「そんなことねえって。っつうか全然飲んでねえな。お前も飲め、飲まねえともったいねえぞ」
「まったく……」
何だこの状況。孫家に召し抱えられて早数ヶ月。朝の早いうちから孫策殿が部屋を訪ね、午は一緒に食うぞ、と無理やり約束させられ定刻に店を伺えばこの有様。理解が追いつかない私がまだ馴染めていないのか、彼らがあまりに突拍子なさすぎるだけか。椅子に座らず呆然と佇む私の手を、痺れを切らした小喬殿が掴む。
「そんなとこで立ってないで食べよ」
「は、はあ」
「ねね、何頼む?ここのおすすめはねー、饅頭かな。中でも桃を使った饅頭はとっても美味しいんだぁ」
「はあ」
「もう、小喬ったら。妹がごめんなさい。あなたと食事できるのが嬉しいみたいで」
「いえ、それは全然ありがたいことなんですが……」
「あーっ!孫策さまったらあたしの饅頭食べてるー!」
「あ、そうだったのか?すまんすまん」
「やだ!新しいの頼むから!」
「名前様は何を食べますか?お酒もいいですが、まずは何か入れないと酔ってしまわれますよ」
では饅頭を、と言いかけたところではっと我に返る。
「そうではなくてですね。なんで私ここに呼ばれたんでしょう?孫策殿」
「んぁ?」
「饅頭食べきってから喋ってください」
呼んだ本人はごくんと飲み下してからしばらく考え込み、ぱっと笑ってみせた。
「一緒に飯食いたかったからな、それだけだ」
「…………はい?」
「すまない、孫策はいつもこうなんだ」
旧友らしい周瑜殿が言う。え、理由なく私を同席させてるってこと?いくら立場に固執しない風柄と言えど一介の傭兵を同席させるのは、流石に周りへの面目が立たないんじゃ。そう思ってやんわり遠回しに断る旨を述べたのだが、誰であろう孫策殿本人に一刀両断されてしまった。
「俺は戦場でのお前の腕に惚れたんだ。遠慮しねえでいっぱい食え!そんでこれからもいっぱい暴れようぜ!」
あまりな脳筋発言に開けた口が塞がらない私。そんな自分に彼らは畳み掛ける。
「独断専行が耐えない彼だが、君の武術は聞き及んでいる。二つとないその力でこれからも支えてくれると頼もしい」
「そうそう。周瑜さまもお姉ちゃんも孫策さまも、あたしもみーんな頼りにしてるし、もう家族だと思ってるからこれからも仲良くしよーね!」
「孫策様が無理言ってごめんなさい。でも、あの、私も名前様のこともっと知りたいと思っていますので、どうかこれからもお力を貸してくださると嬉しいです」
なんというか、一文で表すならまさに玉石混淆。玉の中に石を紛れさすなど普通なら考えられない。石が一つあるだけで玉の価値まで損なわれるからだ。だが彼らを見ていると、石も玉も等しく価値をつけそうだと思った。石を石だからとか玉を玉だからとか言わず、どちらも凄いと雑にまとめて価値をつける。聞く人が聞けば粗雑だの野蛮だの言うだろうが、自分はこの雑さに居場所を見つけた。
「―――こちらこそ、これからもよろしくお願いしますよ」
気恥しさの裏返しの態度さえ彼らは笑って受け入れる。注がれた酒がこんなにも美味いなんて、初めて知った。