下午。晴れ渡る空に誘われて茶屋に訪れた。兵士の間でどうやらここの饅頭が人気らしく、美味しいですよとの友人の声に背中を押されたのである。無類の甘い物好きと自負してる私は、席に座るや否や寄ってきた娘に注文した。待つことしばらく。娘の声に顔を上げると、ほかほかと湯気を燻らせる饅頭が置かれる。両手いっぱいの大きな饅頭を取った時、差し向かう影があった。

「やあ。私も同伴していいかな」

「こんにちは、郭嘉殿」

上官である郭嘉殿だった。色素の薄い髪を揺らして微笑む彼は酒を頼み、何処か上機嫌に私を見つめている。

「あの、何か?」

空気に耐えられる肝を持っていない私はおずおず訊ねる。一方、郭嘉殿は相好を変えることなく言った。

「あなたと話してみたいと思っていたからね。叶って嬉しいんだ」

「……私と?」

曹操殿直々に智謀を認められ、数多の臣から信頼を寄せられているような御仁が、何故一兵卒に過ぎない自分なんかを認知しているのか。またなんでそんな人物と話したいなどと思ったのか。足りない頭では心当たりを見つけるのは難を極める。

「むさ苦しい男衆に囲まれて戦うあなたの勇姿を、一目見た時から離れなくてね。―――甘い物が好きなのかい?」

「えっ、あ、はい。そうです」

勇姿という言葉に気を取られて返事が遅れる。頭を占めるのは謎極まる評価。勇姿などとんでもないし、そんなことで彼の関心を引いたなどとは思いたくない。だって相手はあの郭嘉殿だ。気軽に相手していい立場じゃない。と、寒門出身の私は思うわけだ。

「食べないと冷めるよ」

「し、失礼します」

指摘され饅頭を食む。柔らかくへこんだ饅頭の皮が破れ、中の餡子が舌に広がる。砂糖をふんだんに使っているのか甘くて、思わず笑みがこぼれる。それに郭嘉殿の笑い声も重なったので一気に現実に引き戻された。

「ごめんね。あなたがあまりにも美味しそうに食べるからつい」

「ふ、ふみはへん……?」

「謝らなくていいよ。―――さて、私はそろそろ行くね。また同伴させてくれると嬉しいな」

「えっ」

返事を待たずして郭嘉殿は店を出ていく。何が起こったのか理解する私の前に、彼が注文した酒が置かれた。なんなんだあの人。