目を開けたらそこには兄の顔があった。ので、寝ていると知りながらも鼻を抓む。
「痛っ、痛い!」
「痛くしてるんですから当然です」
悶絶しながら褥を出ていったので、続くようにして自分も布団を退ける。赤くなった鼻頭を若干潤んだ目で押さえる彼に、女中たちが思い描くような眉目秀麗さは欠片もない。
「毎度毎度許可なく入ってこないでと言ってるでしょう。何歳ですかあなたは」
「数えて十―――」
「そういう意味ではありません。兄上」
何を隠そう、この人は自分の兄なのだ。血を分けた兄妹。元服も終えてすっかり美丈夫に成長したというのに、未だ彼は齢一桁のみぎりと同様に添い寝したり着替えを手伝おうとしたり、挙句一緒に沐するとまで言い出す始末。いくら家族愛が強いからといって、これではただの変態である。そういうのは鈍い幸村にでもやってくれと願うのも何度目か。
「義姉上に顔向けできません……」
「何故だ?稲はお前を実の妹のように想っているぞ」
「兄の不始末に頭を痛ませる実妹の心を汲んでください」
「し、しかしだな……。お前は最近兄に素っ気ないと思う」
「常識の範疇です。問題ありません」
「兄の心が傷ついているんだぞ!?」
馬鹿丸出しのこの兄をどうしてくれようか。重度すぎる症状に頭痛を覚え、額に指を当て項垂れる。真田の二柱と名高いその片割れのこんな一面を知られたら、まさに家の疵となろう。大好きな兄が口さがない連中に後ろ指さされるのは見たくない。だからわざと突き放しているのに、なんで妹の親切心を汲んでくれないのか。弟・幸村とは違った方向で鈍い彼に頭痛が悪化する気がした。
「それよりもだ。ここ最近よく寝れていないのか?」
「え?」
「夜うなされていた。悩み事があるなら兄に話してみなさい」
特にそういった自覚があったわけではない。指摘されて初めて気づいたほどだ。しかし兄は目敏くそういうのに気づいてしまう。自分ですら気づいていないものに。
「何でもありません、大丈夫です。ご心配なく」
「そうか。では干し柿を持ってこよう」
「……何故干し柿を?」
「昔から好きだろう」
「…………私は幼子じゃありませんよ」
「知っているさ。ただ兄がそうしたいんだ」
穏やかな笑いを浮かべ頭を撫でる。あまりにも嬉しそうにするものだから、手を払う気も叱咤する気も起きなかった。兄のこういった部分に救われてる自覚があるというのは、存外心苦しい。