―――きみと出会ったのは互いが十の頃だった。あの時の自分は今以上に内気で口下手で、幸い孔明や士元が居たから幾分ましだったけれど、二人が居ないのを見計らって同級生によく物を隠されたり汚されたり、陰口を叩くのも、逆に面と面向かって言われることもあった。二人を過剰に心配させまいと無理して気丈に振る舞っていたけれど、焼け石に水でしかなかっただろう。いつまで続くんだろうと悲観した時、きみが現れたんだ。前触れもなく転入してきたきみを彼らは誘った。遊びと称した自分への嫌がらせに。―――けれどきみは臆することなく「くだらない」と切って捨て、彼らに嫌悪を隠さなかった。あまりにも毅然とした物言いだからか、彼らもきみを恐れてしまって、その日以降自分への嫌がらせは徐々に減っていった。ありがとう、と一言伝えたくてきみの後をついて回った。陰に潜むのは得意だったからきみはついぞ気づかなかったね。それでわかったことだが、彼女も自分と同じく人には言えない事情を抱えていた。母は他所で男を作って出て行き、父は拵えた借金を返すため仕事に明け暮れてろくろく帰宅しない日々。そんな中で、彼女は泣くことも寂しがることもなく、一人強く逞しく己のやることをこなしていた。それを知ってからなんだ。きみを影より守りたいと思うようになったのは。きみは頑張り屋で強いから誰にも弱音を吐くことをしなかったけれど、それでもそんなきみを少しでも支えたくて、きみを虎視眈々と狙う彼らから守る決意をしたんだ。自分たちに属さないのを気に食わないからと同級生らは彼女に目をつけた。ただでさえ一人頑張っているのに、これ以上の重荷は背負わせたくなかった。だから影で消していくことにした。俺はいつも彼らに負かされていた側だったから、水路に彼らが浮かんでいても犯人の候補に挙がることはなかったし、法的にも守られていたために行動は滞りなく行えた。―――事故死として片付けられた時、自分は密かに歓喜した。彼女を守れたこと、自分なんかにもできることがあったこと。成長するにつれて想いは膨れていくばかりであったが、手を出すことはしないと決めていた。彼女の妨げにだけはなりたくなかったのだ。やがて独り立ちした彼女を追って近所に居を構えると、彼女は変わってしまった。男が欲しい、などと友人に言うようになってしまったのだ。昔のきみはそんな俗物じゃなかったのに。これもきっとあの女友達のせいなんだろう。恋人の素晴らしさとやらを滔々と聞かされて影響されてしまったんだ。きみに男なんか必要ないよ、そんなものがなくてもきみは素晴らしい女性なんだから。消さなくては。彼女の指に男が触れられぬように。バイト先へと続く道を歩く姿を見下ろし、口唇を吊り上げる。

「―――きみが悪いんだよ」

俺の目を焼き尽くしてしまったんだから。





きみがわるい