典韋
降り注ぐ矢。一閃を放つ鏃に死を覚悟したその刹那、目の前が暗くなる。見開かれていく目。頬を掠める血。私を見下ろす彼はかっこつけしい笑みを浮かべていて、その背中からはいくつもの矢が抜き出ていた。心臓が止まったような錯覚を抱く。固まった見上げる私の耳朶に飛び込む声。
「―――殿を、頼んだぜ……。それから……、約束守ってやれなくてすまねえ…………」
苦しげで切なげな愛しい人の声。体の最奥に響いて全身に巡る。ようやく動いた時には、力なく倒れる彼の体を抱き留めることしかできなかった。
一分
いちぶ
でいい、たった一分でいい。時を戻してくれ。だってまだ気持ちを伝えられていないのだから。
たった一分でいい
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22
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