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痴話喧嘩は他所でやれ/銃兎

「スーパーくらい一人で行けます!」
「あなた、それで以前見知らぬ男性に絡まれていたのをお忘れで?」
「それはそうですけど! 過保護すぎます!」
「少しは自分が可愛いってことを自覚しろ!」
「えっ」
 勢い良く吐かれた言葉に、彼女の頬が染まる。むず痒い空気に包まれつつ、左馬刻はため息を吐いた。

2022,Sep,6

手に取れる幸福/独歩

 クリスマスイブ。聖夜だったらしい。弊社には、俺には関係ないけど。
 繰り返される残業は勿論今日も繰り返され、気づけばクリスマス当日に突入していた。疲労困憊を通り越し生ける屍になりながらも、独歩はどうにか帰宅した。玄関から見える部屋は暗く、恋人が既に眠っていることは一目瞭然だった。吐く気はなくとも零れ漏れていくため息を吐きながら、リビングを通過する。
「……ん?」
 途中、テーブルに何か置かれているのに気づいた。可愛らしくラッピングされたそれを拾い上げると、括られたメッセージカードが目に止まる。
《メリークリスマス!
 頑張り屋さんの独歩くんには、サンタさんからプレゼントじゃ!》
「……っ、ははっ……。なんだよ、『じゃ』って。おじいさんのつもりか。そうか、サンタのおじさんだもんな。……ははっ」
 おじいさんの割に可愛らしい字を眺め、独歩は自然と笑っていた。プレゼントを開けるのが楽しみで、でも開けるのが勿体なくて、そんなことを悩めるのが幸せで。ふ、と吐いた息に、さっきまで漂っていた陰鬱さは消えていた。

2022,Jan,5

ほしかったもの/一郎

「ん」
「ん?」
 荷物の詰まった段ボール箱を置き、一郎は差し出された何かを受け取った。包装紙をいつもより少しだけ丁寧に開くと、そこには赤色のエプロンが納まっていた。
 思わず目をぱちぱちさせる一郎に、彼女はふはっと笑みを零した。
「そんな訳判らないって顔しなくても。普通に引っ越し祝いだよ」
「普通にって何だよ」
「いいでしょ。それ着けてさ、二郎と三郎くんに沢山ご飯作ってあげてほしいなぁって」
 軽く渡された言葉に、胸がじん、と熱を帯びた。そうか、これからは俺があいつらのメシ作んのか。作って、やれるのか――。
「……ありがとな。使わしてもらうわ」
 目元にぐっと力を込めて笑うと、彼女は見透かしたように「ん」と頷いた。

2021,Nov,15

やわらかな音がいい/三郎

「質の良い睡眠を摂るには、リラックスすることが重要だと言われている。寝よう寝ようという意気込みは、却って睡眠の妨げになるんだよ。
 何か本を読んでみるとか、音楽を聞くとか⋯⋯。
 寝る以外のことをやってみれば?
 少しは変わるかもよ。
 ⋯⋯クラシックならいくつかあるけど、一緒に聞くか?」

2021,May,9

朝一番で駆け出そう/二郎

「まだ寝ねーのか? ⋯⋯は? 寝れない?
 寝れねー時って、羊数えりゃいいんだろ?
 俺も一緒に数えてやっから、とりあえず横になっとけ。いくぞ?
 羊が一匹、羊が二匹、羊が⋯⋯なんで羊なんだ?
 別なもんじゃダメなのか?
 例えば⋯⋯ボールとか! ボールが一個、ボールが二個⋯⋯あー、サッカーしたくなってきた」

2021,May,9

夜は長いし楽しみ詰めて/一郎

「どうした? ⋯⋯寝れない?
 そうか、そりゃ困ったな。
 そんな時は⋯⋯深夜アニメのリアタイだ! 
 ほら、いつも見てるやつそろそろ始まるぞ。何か飲み物でも持ってこいよ。
 どうせ寝れないなら、楽しんじまおうぜ。
 明日は俺が起こしてやるから。な?」

2021,May,9

荷を負う背には乗れない/空却

 落ち込んでいる、と一目で判った。
 どんよりと俯く彼女を見つめ、空却はため息をついた。悩んでいるわけではない。反省すべきところも判っている。ただ、落ち込んでいる――そんなところだろう。
「……っと」
 どかりと彼女の後ろへ腰を下ろし、そのまま背中を合わせる。軽く体重をかけつつ、持ち込んだ週刊の漫画雑誌をめくり始めた。内容は正直半分も頭に入っていない。あくまでもポーズだ。拙僧は今ここで漫画を読みてぇ気分なんだよ、というポーズ。
「……空却くん」
「あ?」
「……ちょっとだけ、聞いてくれる?」
 彼女が少しだけ振り返った。不安げな瞳を肩越しに見てから、空却はハッと笑って漫画誌を閉じた。
「仕方ねぇな、聞いてやるよ」

2021,Feb,24

美味しいは正義!/一郎

 鍵の開く音がしたのに、入ってくる気配がないのが気になった。
 一郎が玄関を覗くと、確かに彼女の背中が見えた――けれど、動き出す気配はない。沈んでいるように、見える。
「お帰り」
「……ただいま」
「ん。お疲れ」
 ぽんぽんと頭を撫でると、彼女の瞳がぐしゃりと歪んだ。今にも涙を零しそうなのが辛くて、一郎はぐっと体を引き寄せた。
「今日も一日、よく頑張ったな。めちゃくちゃえらいじゃねぇか」
「えらく、ない……」
「えらいに決まってんだろ。今日の晩飯がただのハンバーグからチーハンに変わるくらいな!」
「ち、チーハン……! やった……!」
 さっきよりも随分明るくなった声音に、ほっと胸を撫で下ろす。一郎は彼女を解放すると、もう一度だけ頭を撫でた。
「そんじゃ、準備してくるから手ぇ洗ってこい。メシにするぞ」

2021,Feb,24

夢にも現にも、あなたがいた/幻太郎

「新年、明けましておめでとうございます。
 初夢は何か見ましたか?
 ……小生の夢を見た、と?

 ……ふふふ、実は小生、他人の夢の中へ入り込む能力を持っているのですよ。
 その力を用いて、あなたの夢にお邪魔させていただきました。まあ嘘ですけど。
 小生の、初夢ですか? ……秘密です」

2021,Jan,2

何度もカレンダーを見たのは秘密/銃兎

「おや、まだ起きていたんですか? 早く寝ないと風邪を引きますよ。寝不足は風邪を引く大きな要因の一つですから。
 ……ほう。『もうすぐガチャが始まるから寝たくない』、と……。
 そうですか。でしたら、好きなだけ起きていればいいでしょう。私は構いませんよ。……別に怒っていません。お気になさらず。
 金曜の夜は空けておくという話だったと思ったのですが……、どうやら違ったようですね。
 ……は? 意外? 何がですか。私が楽しみにしていたのが、意外と?
 別に楽しみになどしていませんが。

 …………。

 ……チッ。
 言わなくても判るだろ。
 ……判らない? はぁ……手のかかる奴だな……。
 いいか。一回だけ言ってやるから、しっかり脳に叩き込んでおけ。

 近場とは言え、泊まり込みで出かけるなんて久しぶりだからな。
 二人きりの時間を、全く期待してねぇって訳じゃないんだよ。
 ――お判りいただけましたか?

 ……まったく、最初から大人しく寝ていれば良いものを……。
 本当に手のかかる人ですね、あなたは」

2020,Dec,2


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