※共学、主人公は防衛部部員


「こんにちは」
 部室のドアを開けると、そこには鬼怒川先輩だけがいて、「あ、こんにちは」と返してくれた。珍しいな、煙先輩一緒じゃないんだ。
 そんな疑問が顔に出ていたのか、先輩はちょっとだけ苦笑した。
「煙ちゃんなら職員室。進路希望調査、まだ出してなかったみたい」
「なんか納得しました……」
 うん、出してなさそう。もしくは「ニート」とか書いて再提出くらってそう。
 それにしても、鬼怒川先輩と二人だなんて初めてかもしれない。いつもは何だかんだでリュウ先輩とか、イオ先輩とか、誰かしら先に来てるもんなぁ。あ、意外とユモトは遅い。ウォンさんモフってから来ようとしてるからだけど。
「……あのさ」
「は、はいっ!」
 うわぁ……完全に声裏返った……!
「そんなに驚かせちゃったかな……?」
「ああいえ、あの、ちょっと考えごとしてただけなので! すみません!」
「いやいやこちらこそごめんね。水羽ちゃんと二人って珍しいよなぁって思ってさ。ほら、いつもは他のメンバー誰かしらいるし」
「確かにそう、ですね。今日、皆さん遅いですよね。煙先輩はともかくとして、リュウ先輩とか何してんですかね? デートの整理なら部室でもできるのになぁ」
「リュウへの逆信頼がすごい」
「どうせそのくらいしかしてないじゃないですか普段」
「意外と毒舌?」
 少しだけ驚いたように瞠った目を見て、はっとする。まずい、引かれたかも……! 普段の「リュウ先輩対応」してしまった……。
「……すみません」
「え、何で? 俺の知らない一面が垣間見えて、ちょっと嬉しいけど」
「神様だった」
「え」
「すみませんほんとに何でもないです」
 これは煙先輩が鬼怒川先輩にべったりなの判る気がするぞ。何だろうこの溢れる母性のようなもの。
 ちらっと視線を投げると、鬼怒川先輩は不思議そうに首を傾げた。なに?と問われているような気がして、ゆっくりと視線を外した。すみません、意味とかなかったです。
「……何かお腹すきましたね」
 ああああ私バカなのかな話題に事欠いて何してるの!?
「そういえばそうだね。今日ちょっとお昼足りなったんだ」
 乗っていただいてしまった! ありがとうございます!
「ああ、そうなんですか……。鬼怒川先輩って何が好……すみません愚問でした」
「まあ結構言ってるもんね。あ、でもこれは言ってないかも。実は俺……チキンカレーが一番好きなんだ……!」
「ち、チキンカレー!?」
 あれ、何でこんな妙に驚いた感じにしちゃったんだろう。間違った間違った。
「チキンカレーってあれですか、あの、普通にチキンカレーですか?」
「普通じゃないチキンカレーがすごく気になる。普通の、チキンカレーだよ」
「……」
 私はそっと立ち上がると、鬼怒川先輩の横に移動した。目をぱちぱちさせている先輩に向かって、右手を差し出す。
「初めまして同士……。チキンカレー愛好会へようこそ……」
「何その愛好会初めて聞いたんだけど!」
「本愛好会では、ポークカレー推しの人、ビーフカレー推しの人に負けないようにチキンカレーを推していこうという心を大切にしています。現在会員数は1です」
「まさかの水羽ちゃん一人!?」
「いやこんな身近に愛好会会員候補者がいたとは……。もっと早くこの話題を振っておくべきでした」
 数分前の私、グッジョブ!
「じゃあ俺が入ったら2になるんだ」
「はい。あ、因みに無理な勧誘・改宗はなしがモットーです」
「めちゃくちゃ良心的だね……」
「鶏の神に誓ってそんなことはいたしません」
「鶏の神」
 鬼怒川先輩は「うーん」と唸ったあと、小さく頷いた。何かすみません、反応に困る感じの話振っちゃって。やっぱり数分前の私は絞めてきた方がいいかも。
「……これから宜しくお願いします、会長」
「え、いいんですか!?」
「折角の同士発見だしね。あ、でも一個だけお願いしてもいい?」
「? 何でしょうか」
 今度は私が首を傾げると、鬼怒川先輩はCoco辛のクーポン片手に、微笑んだ。
「今日、カレー食べに行こう。ついでに、俺のことだけ何で苗字呼びなのかについて話してもらおうかな」