込み上げてきた欠伸を慌てて噛み殺したが、いらない心配だった。銃兎は軽く体を伸ばしてから、隣で眠る彼女の肩を叩いた。
「起きてください、時間ですよ」
「ん〜……はぁい……」
 渋々、という感じの返事のあと、噛み殺すことなくふぁぁ、と欠伸を零して彼女が起き上がった。サイドテーブルを引っ掻き回すかのように手を動かす動作に覚えがあって、銃兎は横から手を出した。随分端に置かれた眼鏡を取り、翳してみせる。
「お探しの物はこちらですか?」
「あ、ありがとうございます。多分それです」
「多分、って。あなたは自分の眼鏡すら判らないんですか」
 若干のからかいを込めてそう言うと、彼女はぐっと眉を寄せながら――目を細めて見ようとしている――、首を一応横に振った。
「見えてれば判りますよ。でも、今はちょっと自信ないです。銃兎さんが何か持ってるなぁ、話の流れ的に多分私の眼鏡だろうなぁって」
「……本当に『私』ですか?」
 傍から聞けば訳の判らない問いかけだがきちんと伝わったらしく、彼女は申し訳なさそうに目を逸らした。
「……多分……。昨日一緒だったの銃兎さんだし、声が銃兎さんだからそうだろうなって思いますけど、お顔はちょっと……」
 以前から目が悪いとは聞いていたが、ここまでとは思っていなかった。自分も大概目が悪いが、それ以上らしい。持ったままだった彼女の眼鏡を目の前に翳してみたが、つい眉をしかめてしまった。……相当キツい。
「そう言えば入浴時は外していますけど、大丈夫なんですか?」
「家なら慣れてますから。それに、思いっきり近づければ見えるので」
「なるほど、思いきり……。では、私ならどのくらい近づけば見えますか?」
「どのくらい……、そうですね……」
 うーん、と悩む仕草をしていた彼女が、ベッドの上で膝立ちになった。そのまま銃兎の方へ膝で歩いてきて、肩を掴む。浮かべてしまった幽かな動揺は、彼女の視界ではまだ見えなかったらしい。
 そのまま、顔がすっと近づいてきて――。
「このくらい」
「……へぇ」
 ギリギリで止まった。距離にして、推定二十センチ程度と言ったところか。
 それなりに我慢の利く方ではあるけれど、降って湧いた幸運を逃すほど、逃せるほど余裕があるわけではない。
「なるほど、ね」
 僅かに吐息混じりに呟いてみせると、彼女の頬がたちまち染まってきた。漸く気づいたらしい。
「そ、そう、ですね、はい、ん?」
 テキトーな相槌を打ちながら距離を取ろうとする彼女の首の後ろへ手を回すと、戸惑いを浮かべた声を上げた。わざとらしく唇を指でなぞってやれば、ぴくりと肩が跳ねる。
「あの、えっと、ま、待って」
「――待たねぇよ」
 折角接近したんだ、キスの一つでもしねぇとな。