《誕生日おめでとう!》
 時計の針が天辺へ到達した瞬間、ぽん、と表示されたメッセージに、十四は瞳を輝かせた。一番乗りのギタリストが得意げにメッセージを続ける中、次々とメンバーたちからの言葉が重なっていく。どうやら日付が変わるのを待っていてくれたらしく、何だよ一番取りやがって、一番狙ってたのに、なんて言い合っていた。お礼を打ち込み、会話がある程度終わったところで、十四は携帯のバックライトを切った。
 幸せな気持ちを積んだまま眠ろうとした時、小さなバイブレーションが聞こえてきた。寝ぼけ眼で携帯を掬い、画面を確認する。
「んん……、あっ!」
 一遍に目が覚めた。
 メッセージを送ってきていたのは、十四が少し前から想いを寄せている女性からだった。
 夜遅くごめんね、お誕生日おめでとう十四くん――シンプルな言葉と、可愛らしい豚のスタンプが一つ。たったそれだけなのに泣きそうなくらい嬉しくて、十四は携帯を抱きしめた。この喜びを、嬉しさを、愛しさを伝えたいと思ったが、夜が深いことを思い出してやめようとして、気づく。
 メッセージ送ってくれたってことは、今まだ起きてるんじゃ……。
「……あっ」
 気がつけば、手が勝手に彼女の電話番号をタップしていた。かけてしまった以上後には引けなくて、そのまま耳元に携帯を近づける。
 ワンコール。三回鳴らして出なかったら諦めよう、とだけ決めて待つ。出て、という気持ちと、出ないで、という気持ちがせめぎ合って、心臓がばくばく騒いだ。――ツーコール。
『……十四くん?』
 出て、しまった。
 怪訝そうな声にもう一度名前を呼ばれ、十四ははっと肩を揺らした。
「あ、えっと……、こ、こんばんはっす。メッセージ見ました、ありがとうございます!」
 お礼を言うと、突然の電話の意図が判ったようで、律儀だと笑われた。くすくす笑う声が耳を撫でて、どきどきするのにどこかほっとした。
「本当に、本当に嬉しかったっす。誕生日、覚えててくれたんすね」
 覚えやすかったから、なんて軽く返されたが、それでも嬉しいものは嬉しい。自分の一部分が、例えほんの一部分でも、彼女の心に留まってくれている事実に頬がゆるむ。
「……会いたいなぁ」
『え?』
 願いが声になっていることに気づいたのは、彼女の驚いた声を聞いた時だった。言うつもりじゃなかったのに、こんなことを言われたらどう思うだろう。図々しいと思われるだろうか、鬱陶しいと思われるだろうか。勝手に涙が浮かんでくる。
『いいよ。十四くん、明日は忙しい?』
「え? あ、えーっと……午後は約束あるんすけど、午前中なら空いてるっす」
『なら、一緒にお茶しない? 美味しいケーキがあるお店があって、』
 さらさらと続けられるお店の情報や、いかにそこのケーキが絶品かという情報に流されてしまいそうになったけれど、十四は慌てて大切な部分を捕まえた。
「あ、会ってくれるんすか? 鬱陶しくないっすか?」
『全然。会いたいって言ってくれたの、嬉しかったよ?』
 私も会いたかったから。
 続いた言葉は小さくて、ともすれば雑踏に消えてもおかしくないほどだった。
 ――でも、十四には届いた。確かな温かさを持って。
 十四は携帯をきゅっと握りしめると、静かに深呼吸した。勘違いかもしれない、それでも。
「明日、話したいことがあって。……聞いてほしいっす」