ただいま、の声は大分小さく抑えた。
 もし起きているなら、どんなに抑えたところで「お帰りなさい」と駆け寄ってくることを知っているが、それでも。
「……流石に寝てるか」
 靴を揃えて、ジャケットをハンガーにかけて、手袋を取ったら手洗いうがいも忘れずに。色々な作業を進めたが、部屋はしんと静かなままだった。いつも先に寝ていろと言っているのは自分なのだから寝ていてくれて構わないのだけれど、つい寂しさを感じる。まったく、始末に負えねぇな。
 さっとシャワーを済ませ、寝室に向かう。起こさないように、そっとドアを開けて。
「……」
 銃兎の目に飛び込んできたのは、ベッドの上にできた山だった。
 一瞬固まってしまったが、すぐにそれが布団で構成されていることに気づき、流れるようにこの山の中心部に彼女がいることにも気づけた。ふ、と息をついてから布団――多分頭の辺り――をぽん、と叩く。
「……起きていたんですか、」
 そっと名前を呼ぶと、こんもりと盛り上がった布団がそろそろと銃兎の方を向いた。
「じゅうと、さ、」
「っ、な……」
 ぽたり、ぽたり、と音がしそうなくらいに、ゆっくりと。
 彼女の瞳から、涙が零れていた。
 違う、と呟きながら目元を拭っているが、涙は後から後から出てきて止まる気配がない。せめてもの抵抗のように唇をぎゅっと結び、必死に泣き声を上げないようにしている彼女を腕の中に閉じ込めた。
「堪えなくていいですよ。落ち着くまで、こうしていますから」
「っ、じゅうと、さん、銃兎さん……っ」
 ぎゅっ、と縋りついてくる体を、しっかり抱きしめる。自らよりも儚い背を撫でながら、銃兎は密やかに眉を寄せた。
 迷惑や心配をかけまいとしてくれているのは判るし、それは彼女の優しさだ。だが、悲しい時や苦しい時に黙秘しようとするのは頂けないな、と思ってしまう。
 ――俺をもっと頼ってくれ、なんて身勝手だろうか。