隣の気配がもそり、と動くのが判った。元々気配に聡い為、彼女と寝るようになってからもしばしば目を覚ましていたのだが、最近は寝返り程度なら起きなくなっていた。とは言え、大きな動き――例えばベッドを抜け出すような――はやっぱり目覚めやすい。
「……おい」
 瞼を開くことなく、おおよその勘だけで腕を掴むと、「ひぇっ」と声が上がった。眠っているはずの人間から呼び止められた上に腕を掴まれるのだから、当然の反応ではある。
「どこ行こうとしてんだよ」
「え、えっと」
「つーか今何時だ言ってみろや」
「……六時半?」
「あ? 六時だ? 昨日『今日は休みだからアラームかけない』とか言ってただろうが、なに勝手に早起きしてやがんだ戻れ」
 かなりの暴論を振りかざしている自覚はあるが、休みならのんびりと眠っていられると内心期待していた身としては、彼女の行動は納得できるものではなかった。
「……実は仕事だったの忘れてた、っつぅオチか?」
「いや、仕事は休みなんですけど。何だか、目が覚めちゃって。折角だし、書類作り進めようかなって」
「休みなら休め。元々予定に組み込んでねぇなら、やんなくても問題ねぇだろうが。つぅか毎晩毎晩遅くまでパソコン見てよぉ、いつ寝る気だ?」
「……今?」
「判ってんじゃねぇか、おらとっとと戻れや」
 掴んだままの腕を引っ張り、布団の中へ引きずり込む。柔らかな体は、簡単に閉じ込めることができてしまう。ほのかな甘い香りを堪能しつつ、背中をぽん、ぽんと撫でてやると、すぐに瞼が落ちてくるようになった。やはり、予定外の早起きは堪えているようだ。
「……さまとき、さん」
「あ?」
「起きたら、ごはん、」
 続きはなかった。きっちり眠りの海へ揺蕩うのを確認してから、左馬刻は幽かに笑った。
「メシがどうしたよ、ったく」
 多分、朝ご飯を一緒に食べようとか、どこに行きたいとかそういうことを言いたかったのだろうけど。
 まあ、後で聞けばいい。
 左馬刻は彼女の髪を軽く撫でてから、少しだけゆっくりと瞼を下ろした。
 次に目覚めたら、時刻は九時を回っていた。