吹く風の音がピン、と高くなる。
吐く息が煙のように濃く色づく。
夜は足音もなく深くなるのに、朝は随分ととろくさくなる。
それから。
「左馬刻さん、どうしたんですか?」
マグカップで両手を塞いだ彼女が、不思議そうに聞いてきた。左馬刻の視線に気づいたらしい。まともに答えてやる気はないので、黙ってカップを二つとも奪った。一瞬呆気に取られていたが、彼女はすぐに微笑んでお礼を言ってきたが。
「あ、ありがとうございま、っえ、うわっ!?」
その、油断しきった華奢な腕を引く。
バランスを崩した体は、いとも容易く左馬刻の胸元へ転がり込んできた。え、え、と戸惑う声音を口の中で暴れさせながら、彼女がもそもそと体を動かす。動くなとばかりに抱き寄せると、すとんと大人しくなった。
「体、すごい冷たいですね……。体温ちょっとだけ分けてあげます、えーい」
きゅっと抱きついてくる背中を撫でながら、喉の奥で笑う。
「『えーい』って何なんだよ、ガキか」
「そうかも。ほら、子供体温」
「は、てめぇで言うか?」
「言いますよ、あったかいでしょう?」
「……おう」
彼女の体が触れている部分だけが、ゆるやかに温まっていく。血の通わぬ鬼から、あたたかく、やわらかな人の温度に。
「……あったかくなりました?」
胸にぺったりと頬をつけたまま、彼女が尋ねる。既に温かくなっている、十分すぎるほど。それに、折角用意してくれた飲み物を冷やし切ってしまうのも惜しい。
「……まだ、ちっとさみぃ」
「はぁい」
考えとは裏腹に、口が甘ったれたことを宣った。彼女はそっと微笑むと、再び左馬刻に抱きついた。
テーブルの上に置かれたマグカップが、急速に冷めていく。【これ】も今ならではと言えるかもしれない。そんなことを思いながら、彼女の体を抱きしめた。
吹く風の音がピン、と高くなる。
吐く息が煙のように濃く色づく。
夜は足音もなく深くなるのに、朝は随分ととろくさくなる。
それから。
「……もっとくっつけ」
やけに、ぬくもりが恋しくなる。