「ね、ぎゅってして」
彼女からそう言われれば、断る理由なんてない。乱数は飛び切り可愛らしく笑うと「もっちろん!」と腕を広げて彼女を迎え入れる。背中に腕が回され、柔らかな感触と温度が体にくっついた。
「乱数はあったかいね」
「え〜、そうかなぁ? キミもすっごーくあったかいよ。ボクの好きな感じ〜♪」
「ほんと? ふふ、お互いぽかぽかだ」
「……うん。ほんとに、ね」
体が温かい。言葉が返ってくる。言葉を投げかけられる。胸が苦しい。二人が確かに今存在し、生きている証だ。
「……乱数」
「ん、なぁに?」
「だいすきだよ」
「っ、」
不安、困惑、錯乱、怒り。真っ黒で真っ暗な渦に飲まれそうな時、彼女はいつも「ぎゅってして」と頼んでくる。何も知らないはずの彼女だが、心の奥底のやわらかいところで何かを感じ取っているのかもしれない。頭の中でも判るみたいに、一番弱っている時の乱数にぴったり寄り添って、暖めて、解す。
乱数は一瞬止めた息を吐くと、彼女の体を強くつよく抱きしめて囁いた。
「……あははっ。ボクも……、ほんと、だいすきだよ」