「ふぁぁ……、寝れない」
「欠伸しながら何言ってやがんだ」
 うう、と唸る彼女の髪を軽く撫でつつ、左馬刻はかなり雑に口を開いた。
「あー……あれだ。ガキ寝かすのにオルゴールとか聞かせてやるといいらしいじゃねぇか。聞いてみろや」
「あまりにもざっくりした子供扱いにびっくりだよ。ってかそれ子供っていうか赤子だし。寧ろ赤子扱いじゃん」
「てめぇもガキもそんな変わんねーだろ、ふやっふやで頼りねぇとことかよ」
「これでもまあまあ大人なんですけど……!?」
「そうだったか?」
「もしかして左馬刻、眠い」
「眠くねぇ」
「嘘だぁ、さっきから目ぱちぱちしてるよ」
「……眠くねぇっつってんだろ、このまま沈めんぞベッドに」
「流石に勘弁、ってか無理でしょ」
 反論したかったが、無理なことくらい左馬刻自身が一番よく判っていた。何もしないでいると、瞼がぴったりくっついてしまいそうになるくらいには、眠たい。
「……しょうがない。おねむの左馬刻くんの邪魔しないうちに脱出しましょうか。眠くなったら戻るね」
「あ? 頼んでねぇわ」
「いや気遣い的なあれだから、ここは『ありがとう』だと大分嬉しいんだけど……」
「頼んでねーモンに感謝できるわけねぇだろうが」
「ん?」
 起こしかけていた上体へ腕を回し、素早く絡めて倒す。ベッドに戻された自分に対してしきりに首を傾げる彼女の額に口づけて、言外にとっとと寝ろと伝えた。
「えぇ……寝れないっつってんのに……?」
「俺様が寝るっつってんだから寝んだよ、判ったか?」
「暴論」
「判ってねーなら今日で覚えろ」
「更に暴論」
「おら、口閉じろ。あと目ん玉も閉じとけ。で、横になってりゃ多少は休まるからよ」
「……はーい」
 漸く諦めてくれたのか、彼女は身動ぎをやめた。途端に静かになって、眠気の波が左馬刻を飲み込んだ。海の底へ沈むように、意識が遠のく。
「……左馬刻、――」
 彼女の声がふっ、と溶けた。多分、お休み、とかなんだろうけれど、言葉に混ざる幸せな色しか汲み取れなかった。愛おしい声。存在、気配、温度。彼女を構成する全てが、左馬刻を深い水底へ連れていく力を持っている。
 力が抜ける寸前に、彼女を少しだけ強く抱き寄せた。幽かにため息と笑みを零したのが気配だけ判って、それが途轍もなく、幸せだった。