クリスマスは浮かれたバカが、善くも悪くも大量発生する日だ。嫌な意味でクリスマスらしい日ではあったのだが、良い意味でのらしさは全く体感できなかった。一応イルミネーションは見たけど。まあ見たと言うより【通過した】の方が正しいけど。
銃兎の帰宅を待ちわびていたであろう恋人も、玄関先で顔を見るなり「……うん、おやすみ!」とサムズアップしてきた。あれは完全に何かを飲み込んでいた。
目を覚ましたところで、もう枕元にプレゼントが置かれることはない。大人になったものだ。一つ息をつくと、眠る彼女の髪を撫でた。彼女の存在がプレゼント、と言えなくはないか。
「……銃兎さん」
「おや、起こしてしまいましたか。おはようございます、昨日は申し訳ありませんでした」
「ううん、大丈夫ですよ。今日はお休みって、……前言ってましたよね? 変更ないですか?」
「ええ。昨日に丸一日費やしたので、その分休ませていただきますよ」
「ふふっ、よかった〜。……なら、益々大丈夫です。ほら昨日ってイブだし、何ならただの前日ですからね。大事なのは当日、今日ですよ! 昨今の主流はおうちクリスマスですから、出かけなくても楽しめますしオールオッケー! です!」
ぐっと拳を握って力説する姿は愛らしいが、随分と譲歩されている感じがある。家でゆっくり過ごせるならそれに越したことはないが、昨日一日構えなかった以上、今日くらいはわがままを聞きたい気持ちでいるのだが。
「出かけなくていいんですか? あなた、随分色々なところを調べていましたよね」
「そ、れは、そうですけど……」
唇を曲げた彼女が「なんでバレたんだろう」と言いたげな顔をしている。密かに調べていたようが、現職の警官の前ではあまりに稚拙な隠密行動だった。銃兎に気を遣わせまいとしてくれていたのだろうが。
「銃兎さん、綺麗な物好きじゃないですか。だからイルミネーションとか見たら元気になるかなぁと思って調べてただけで、めちゃくちゃお疲れのところを引き回してまで見たいかって言われると違うんですよ〜……」
「ふふっ……。大事にしてくれますね、あなたは」
「しますよそりゃあ……、好きですから」
真っ直ぐに伝えられた好意に、口元が緩む。自分で言っておいて照れている彼女を、銃兎はそっと抱きしめた。
「ありがとう。では今日一日、あなたを独り占めさせていただいても?」
「勿論です。今日は誰の予約も入ってないので、一日貸切プランが使えますよ!」
「ふふっ、買い上げはできないんですか?」
「か、買い上げ!? えーっと……、あっ、今なら何でもします! お買い得!」
「そうですか、では【何でも】付き合っていただきましょう」
「えっ、あ、何でもは言い過ぎだったかも、」
「何を仰いますか。買ったのは私なんですから、好きにさせてもらいますよ」
「えぇっ、オーナーさん紳士的と見せかけて横暴……」
「……っ、ふふっ……」
茶番だ。何をさせられるのかと戦々恐々としている彼女に口付けると、やわらかく瞳が緩んだ。さて、どうしてやろう。このままベッドに沈めるか、それとも起こすか。お腹がすいた気がするから何か買いに行くか、作ってほしいとねだってみるか。どれもこれも魅力的で決めがたい。
「……銃兎さん」
「はい?」
「クーリングオフできないですよ? 大丈夫ですか?」
「……あぁ。今更頼まれたってしねぇよ」
ひとまず抱きしめて、ゆっくり考えることにする。まだ一日は、「大事な当日」は始まったばかりなのだから。