今日も仕事を終え、とぼとぼ帰宅する。いや、私だってもっと「よっしゃー! 帰るぞー!」って帰りたいんだよ? でもね、もう疲れがマックスなんだ……そんな元気ない。まあ、テンション上げて帰る人いないかもだけど。
「ただいまー」
「お帰り、水羽。今日もお疲れさま」
「早く手洗ってこいよ、メシできてるぜ」
奥からアキくんとハルくんが出迎えてくれた。じわっとあったかくなる。
言われた通りに手を洗ってからリビングへ行くと、アキくんがオムライスを出してくれた。
「ケチャップで好きなこと書いてあげるよ。何がいい?」
「ほんと? ならねー、名前!」
「名前……? 名前がいいの?」
めちゃくちゃ首を傾げながら、アキくんはオムライスに【水羽】って書いてくれた。すごい達筆で。ケチャップなのに。
「いただきます。……二人は?」
「もう食った」
「そっか」
じっと見守られて、ちょっと緊張しながらオムライスを口に運ぶ。……ううむ、やっぱり美味しい。
「……ごちそうさまでした。美味しかったです」
「……ならいいけど」
あ、こんな反応ってことは、これハルくんが作ってくれたんだ。アキくんが作ってくれた時は「これアキが作ったんだぜ!」って自慢げだもんね。
「ご飯食べたなら、お風呂に入っておいで。明日も早いんでしょう?」
「はーい」
アキくんは時々お母さんみたいだ。優しさが染みる。
湯船に浸かる直前に思い出して、アキくんとハルくんが映ったボトルに入った入浴剤を注いだ。……うーん、二人には悪いけど、正直違いが判らないぞ……。まあ肌にいい(らしい)し、入れとこう。
「ただいまー。あの入浴剤入れたよー」
「ああ、結構いい匂いするよな、あれ」
「えーっと……ごめん、ちょっと判んなかった」
「鼻ヤバいんじゃねーの?」
「辛辣」
「こら。……まあ仄かな香りだから、鈍感だと判らないんじゃないかな」
「そうだよ、お前はそういう奴だよ」
タイプの違う暴言を受けて、むうっと顔を顰めるけど、全くお構い無しな二人に、両サイドから抱えられる。そのままベッドまで運ばれて、寝かしつけに入って、って。
「いやいや狭ない?」
「狭くない狭くない。ほら、早く寝なよ」
「子守唄でも歌ってやろうか?」
「何か殺されそうだからいいです」
「ああ?」
「嘘ですお願いします」
「仕方ねーな」
「めちゃくちゃか」
まあもう慣れたけど。
少しの間があって、それから密やかな歌声がステレオで聞こえてきた。……やっぱり殺されそう。すごい贅沢だ。
意識が、遠くなる。
――♪
と思ったのも束の間で、携帯の音がした。目を開くと凄く嫌な顔をされたけど、携帯を取った。
「はーい」
『あ、水羽ー?』
蔵王だ。
大学生の頃はよく飲んでたけど、最近は会ってなかったから、久々に聞く声。でも眠いから今度にしてほしい気もする。
「なに、どした」
『いや、今日イオと飲んでたんだけどイオがべろべろになっちゃって、で、タクシー呼ぼうとしてんのに、高いから嫌です!とかごねられて動けねーんだよ』
「それは迷惑だな……って、鳴子くんが!? 鳴子くんが潰れてんの!? 蔵王がじゃなくて!?」
眠気飛んだ。
『俺じゃなくてって何だよ!』
「え、だって蔵王が潰れてるとこなんて200回くらい見たことあるし、なんだったら寝落ちてとんでもない県まで行った仲だけど、鳴子くんがいったのは見たことないし」
『何か今日ペースすげー早かったんだよ。何かあったっぽい』
「そっかー……。おけ、今から迎えに、」
場所を聞こうとした瞬間、ハルくんに携帯を奪われた。
「行かねーよバーカ! ってか人のもんパシってんじゃねーカス!」
『は、別府くん? なんで?』
混乱する蔵王に何の言い訳もする間もなく、電話が切られた。
「ちょっと何する」
「何するじゃねー! 何でさくっと行こうとしてんだバカ!」
「えぇ……」
キッと睨むハルくんに不満の声を上げていると、後ろからのしりと体重をかけられた。そういや反対側にアキくんいたな。
「ところで、『寝落ちてとんでもない県まで行った』って何?」
「な、なにとは……」
「何?」
後ろ振り向けないなこれ。
どんな顔か判らないけど、多分割と怖い顔してる気がする。
「……いや、あのですね。二人ですごい飲んだあと、電車乗ったら準急で、気づかなくて、そのまま寝ちゃって、終点がとにかくすごい南下した県でしたーって話」
「で、その日は帰ってこれなかったんだよね? どうしたの?」
「……えっと、駅で始発まで待ちました」
「そう」
……本当はその前に【どう見てもラブホしかなさげだけど入ってみるか戦争】があったってことは秘密にしよう。
背中の圧力がゆるみ、やっと安心して息を吐いた瞬間、右腕をハルくんに、左腕をアキくんに抱き抱えられ、って、え?
「あのー、これは……?」
「水羽のことだし、俺らが寝たら蔵王のとこ行くかもしんねーだろ」
「だから、逃げられないようにしないと」
「いや、逃げないよ……ってかそもそも逃げるってなに」
「おやすみ、水羽」
有無を言わさぬ様子のアキくんに、色々と飲み込む。……うん、諦めましょう。どうせ明日も早いし、蔵王助けに行ったら、多分朝まで帰ってこれないし。オールナイトトーキングしちゃうのは目に見えてる。
両サイドからのぬくもりと柔い力を感じて、目を閉じる。
とりあえず明日、蔵王には詳細教えてもらおう。