突き飛ばされた背後で、ドアが閉まる音が重々しく響き、素早くドアノブに手を伸ばしたものの、既に何重もの鍵がかかったあとだった。舌打ちしたい気持ちを抑えて振り返ると、真っ青な顔をした道後が、和倉に数歩近づいた。
「あ、あのあのあの、七緒先輩……。これ……」
差し出された紙の中身は、読まなくても何となく判った。
【解錠の条件:セックスすること】
はあ、とため息を吐くと、道後を見た。目が合った瞬間、ぴくっと体を震わせていた。
「仕方ありませんね。……一六くん」
「はっ、はいっ!?」
部屋の中央に置かれた大きなベッドに腰かけ、優美に足を組む。ぽんぽんと隣を叩くと、恐る恐る恐る、くらいの感じで随分離れた位置に座った。
「助けが来るのを待ちましょう」
「……へっ?」
「どうせ誰か気づくでしょう。僕たちは変身できませんが、外にはカルルスもいます。変身して攻撃すれば、恐らくこんな部屋すぐに壊せるはずですよ」
「……あ、あぁっ! 確かにっ、そうっすよね! あー、びっくりした!」
「ふふっ、一六くんは僕とセックスするつもりだったんですか?」
「えっ、あっ、えっと! そ、そもそも男同士ってセックスできるんですか?」
真っ赤な顔をした道後は、牽制の為に聞いてきたというより、本当に知らなくて聞いているようだった。さて、何て答えようか、なんて、数秒も迷わなかった。
「さあ、どうなんでしょうね?」
からかっているのでなく、本当に不思議そうな顔をして返してみせると、道後は納得したように「ですよね!」と頷いた。
「でもでもでも、何で俺たちが閉じ込められたんですかね? あ、もしかして七緒先輩のこと女の人と間違えたとか!?」
「……案外一六くんのことを女の子と間違えたのかもしれませんよ」
「えぇっ!? それはないっすよ、俺、男だし!」
「僕もそうですけど?」
こう言うと道後は、漸く自分の言葉で少し不快感を抱かせたことに気づいたらしい。はっとした顔をすると、小さく「すいません……」と謝った。
「……まあ、間違えてしまったのであれば、早く出してくれるかもしれませんね。そうしたら、相手に恨み言を百個くらい並べ立ててやりましょう」
「あはは……、ひゃ、百個って……」
多分、そんなわけないだろうけど。
胸の中で自嘲しながら、とりあえず周辺の探索をすることにした。ひょこひょこと着いてくる道後と一緒に見た結果、多少は把握できた。
今いるベッドルームの他に、トイレとバスルームが一つずつある、ワンルーム。全ての壁は真っ白で窓はなく、扉も一つきりで、時計もない。食料はあるものの、恐らく三日は持たないくらいだ。全体的におやつやお菓子が中心で、あまり食事らしい食事がない辺り、さっさと出てほしいのかもしれない。
ベッドの横には、あまり用途を考えたくないような道具の数々が仕舞われていた。道後が中を確認しないうちに、そっと隠す。
「……とりあえず、お話しでもしてましょうか?」
何の手がかりも得られず、再びベッドに腰かけて投げかけると、「はいっ!」と今度は随分近くに座ってくれた。
「この前なんですけど、うちのかーさんが!」
「はい」
何てことのない話を、さも大冒険のように語る道後の声に耳を傾けながら、丁寧に相槌を打つ。元気いっぱいに笑う姿に、少しだけ胸が痛む。
――ごめんなさい、一六くん。ああ言いましたけど、多分、この部屋から出る術は【一つ】しかないんですよ。
暫く楽しそうに話し続けていた道後だったが、少しずつ静かになってきた。段々と不安になってきたのか、視線が僅かに動くようになる。
「……七緒先輩、もう誰か気づいてくれましたかね?」
「きっと気づいてくれますよ。大丈夫です」
「そう、っすよね……。すいません、この部屋時計ないし、俺らも持ってないから、今どんくらい経ってんのかなーって思っちゃって」
携帯や腕時計の類も丸々奪われていて、時間の感覚が狂っていくのがよく判る。もう一時間は経っただろうか。……いや、存外三十分くらいかもしれない。
「……こんな部屋、早く出たいですよね」
「はいっ。七緒先輩といれるのは嬉しいですけど……、でもでもでも、まだ今週のガンプ読んでねーし、それに、」
僕はガンプ以下ですか、何て笑おうと思っていたのに。
「太子と喋りたいし!」
ひゅ、と喉の奥が鳴った。
震えそうになるのを抑えて、無理やり微笑みながら聞く。
「……一六くん、あんなにいつも喧嘩しているのに、太子くんと喋りたいんですね」
「あー……、まあ確かに色々絶対譲りたくないですけど……。俺、太子と喋ってるのすげー楽しいんです! 知らないこと知れるのも、太子の意見聞けるのも、あとあとあと、言い合いできるのも!」
「僕と話しているよりも、楽しいですか?」
「そ、それはまた別で……! 何つーか、話してて一番楽しい!って思うのは太子っていうか……」
七緒先輩と話してるのも楽しいし勉強になるし、超超超かっこいい!って思うんですけど!――なんてフォローのような何かは、上手く意味が捉えられなかった。
「……ずるいなぁ、太子くんは」
「えっ? ずるくないですよ! あいつああ見えて……ん? ああ見えて?かどうか判んないですけど、男らしいし曲がったこと嫌いだし、ズルとかしないですよ!」
「いえ、ずるいですよ。だって、」
ここで言葉を切ると、和倉は横に座っていた道後の体をベッドの中央へ突き飛ばした。自分よりも軽い体は簡単に吹っ飛び、ぼす、とマットレスを叩く音がした。
まだ何も把握できていないうちに、ネクタイをしゅるりとほどき、道後の両手首をベッドに縛り付けて、自由を奪った。
「な、七緒先輩!? これ、何で、外してください!」
「……結局、君の一番は太子くんなんですよね。僕はただの【憧れの先輩】であって、特別なんかじゃない」
「意味、判んないです……」
「……一六くん。一六くん……」
道後のTシャツを捲り上げ、素肌に指を滑らせると、大袈裟なくらいに体を跳ねさせた。自らのワイシャツのボタンを外して肌蹴させると、ぴたりと合わせる。破裂しそうな激震を感じて、ふふっと笑う。
「な、ななお、せんぱい、何して」
ズボンのベルトに手をかけると、悲痛な声は大きくなった。
やめてください、冗談ですよね、七緒先輩、七緒先輩。
声は抵抗しているものの、自由を奪われた身ではどうしようもない。あっさりとベルトを抜き取り、ズボンを脱がせてから、和倉もベルトを解いてズボンをぽすんと落とした。馬乗りになると、触れ合う素肌の面積が大きくなった所為か、体温を随分近くに感じた。
伸びた手がどこを目指しているのか判ってしまったようで、道後は半分泣きながら和倉に叫んだ。
「七緒先輩っ、やめてください! だってだってだって、言ったじゃないですか、できないって!」
「……できないなんて言ってません。どうかなって言っただけで」
「え、え……あっ!?」
下着越しに触れたそれは、触れ合っている肌よりもずっと熱くて、なぜか泣きそうになった。
「本当は、男同士でセックスする方法、あるんですよ」