怖い夢を見た。
 はっと目覚めると、何となく辺りを確認してしまった。隣で穏やかに眠る和倉がいて、ほっと息をつく。
 目覚めても尚まとまわりついてくる恐怖から逃れようと、和倉に口付ける。一度では足りなくて、二度三度と繰り返すと、流石に何か起きていることに気づいたらしく、和倉が唸った。
「……なに、大樹。まだ目覚まし鳴ってないよね?」
「鳴ってないねぇ」
「酷いなぁ……二度寝なんかしたら起きられなくなるし、もう寝れないじゃん」
 不満げに唇を尖らせると、和倉は半身を起こしていた宇奈月にならって体を起こした。よいしょ、と宇奈月に寄りかかると、「で、何かあった?」と聞いてきた。
「別に何でもないよ」
「嘘だ、何かあったでしょ。判るんだからね」
 後輩たちへ向けられる勘の鋭さは、宇奈月にも適応されるようだ。参りました、とばかりに苦笑すると、ぽつんと零した。
「……ちょっと、怖い夢を見て」
「怖い夢? 大樹にとって怖い夢、か……。指宿くんに何かあったとか?」
「それは怖いなぁ」
「……じゃあ、鏡太郎くんに何かあって、指宿くんが悲しむ夢?」
「それも嫌だな、阿多には幸せになってほしいから。……というか、俺の嫌なことイコール阿多なの?」
「え、違う? んー……」
 存外鈍っているんだろうか、その辺り。
 そんなことを思いつつ予想を見守っていると、「あ」と声を上げた。
「僕に何かある夢、とか? なんてね」
「……違うよ」
「……え、そうなの?」
 しまった、否定が遅れた。
 こうなってしまっては、もう取り繕えない。へぇ、と頷いた和倉は、首をこてんと傾けた。
「僕って案外愛されてたんだ」
「酷いな、こんなに愛してるのに」
「愛してる、なんて胡散臭いだけじゃない」
「じゃあどうしたら信じてくれるの?」
「そうだなー……キスでもしてもらおうかな」
「お安い御用」
 ちゅ、と軽いキスをすると、くすくすと笑った。さっきと同じように二度三度と繰り返してから、顔を少しだけ離す。鼻先が触れ合いそうな距離で、ピントの振れた和倉が笑ったのは判った。
「でも、愛してるからってキスしてくる奴なんて、やっぱり胡散臭いか」
「それ、どう足掻いても俺の愛は伝わらないってこと? 悲しいこと言うね」
「どうだろうね。伝わる方法があるかもしれないよ?」
 楽しそうに声を跳ねさせた和倉は、ベッドから降りた。
「永遠でも誓ってみようか」
「胡散臭さがカンストしてるよそれ」
「だと思った」
 和倉の手を取って、指先へキスしてみせると「カルルス思い出すからやめて」と睨まれた。
 でも、うっすらと赤くなった頬を見る限り、そんなに怒ってはいないらしい。